呼吸(いき)するように愛してる
美羽が生まれる前に「ナイトになって美羽を守る!」と苑子さんに宣言した事。

自分でうっすらと覚えているから、うまく惚けられない。……でも、あの時の本心だったから。

それぐらい、美羽の誕生を待っていたし、嬉しかったのだ。

がんばってお世話したせいか、美羽は俺によくなついてくれた。

おしゃべりができるようになると「たっくん兄たん!」と呼んで、俺の後をついて回ったり、座っている俺の膝の上に当たり前に座るようになった。

柔らかくて温かい美羽は、傍にいるだけで、とても幸せな気持ちになれた。

美羽は、俺の顔をその小さな手でペタペタと触っては「気持ちいい!」と笑った。

美羽の頬や唇の方が、もっと柔らかで気持ちいいのに。

俺はお返しに、美羽の両頬を両手で思いっきり(優しく)つまんでやる。

両頬をつままれたまま、美羽は嬉しそうにニヘラと笑う。俺はプッ!と吹いた後、美羽の両頬を優しく撫でた。

「たっくん兄たん、ありがとっ!」

なぜかお礼を言う美羽を、笑いながらギュッ!と抱きしめた。

「どういたしまして」



あの日から、美羽の呼び方が「たっくん兄たん」から「匠くん」に変わった。

きっかけは、美音のいつものちょっとした意地悪だ。美羽の事、可愛くて仕方ないくせに……美音は、好きな人ほど意地悪をしたくなるようだ。

……大人になってから、美音のそういう気持ちを、理解できるようになるとは思わなかったが。

美音の意地悪をきっかけに、三才だった美羽は「けっこんしてください!」と俺に言った。美羽の必死な顔に、俺が「NO」と言うはずかない。

「美羽が大きくなったら結婚しようね」と、ありがちな返事をした。

その後、美羽から唇にキスされた時は、さすがに驚いた。

「私にとってあれは、“誓いのキス”でもあり、“ファーストキス”でもあったんだよ」

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