呼吸(いき)するように愛してる
そんなある日、苑子さんに久々に夕食に呼ばれた。何かをたくさんいただいたから……そんな理由だったと思う。

兄貴と二人、朝倉家におじゃました。

「要くん、匠くんに食べてもらうの、久しぶりね!たくさん食べてね!帰り、朋美達の分も、持って帰ってね」

ニッコリ笑って、苑子さんが言った。

食事の時、俺はいつも美羽の隣に座っていた。……うん、大丈夫。

食事をしながらお喋りをする美羽は、俺のよく知っている美羽で、その事にもホッとした。

二十時半を過ぎ、いつもよりゆっくりと食べた夕食から自宅に帰る事にした。

母さん達の分だというタッパーを兄貴が受け取り、みんなに挨拶をして、ダイニングを出て玄関に向かった。

「匠くん!」

玄関まで、美羽が走って追いかけてきた。

「ん?どうした、美羽?」

立ち止まって振り向いた。美羽が、俺の前に立つ。

「匠くん、忘れ物!」

美羽が俺を見上げながら、そう言った。

「えっ!?忘れ物?…俺、何も持ってきてないよ」

「匠、俺先に帰ってる」

「ああ」「要お兄ちゃん、おやすみ!」

兄貴の言葉に、それぞれの言葉を返した。

「美羽、おやすみ!またな」

兄貴を美羽と見送ってから、また美羽に向き直る。

「美羽、忘れ物って?」

美羽は俺を見つめながら、右手で前髪をかき上げ額を出した。

「匠くん、久しぶりだから忘れちゃった?…ここ!」

左手の人差し指で自分の額を、チョンチョンと指差す。

……っっ!!……マジかよ……

俺は美羽の意図する事に気付いて、内心かなり動揺した。

「美羽のおでこが、どうした?…もしかして、俺の強烈でこピン希望?」

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