呼吸(いき)するように愛してる
動揺を隠すように、わざとおどけて言ってみた。“強烈でこピン”て……俺が美羽にそんなのした事、あったっけ?

美羽は、サッと左手で自分の額をガードする。

「違うもんっ!匠くん、本当に忘れちゃったの!?……おやすみの、キス……」

赤く頬を染めた美羽が、瞳をウルウルさせながら上目遣いで俺を見つめる。

自分の体温が、上昇していくのがわかった。

失敗した……美羽にこんな顔をさせるくらいなら、さっさと済ませて、早く変えればよかった。

「美羽……」

「匠くん、ダメ?」

そんなすがるように見つめられたら、俺に拒否なんか、できるはずがない……

美羽の肩にそっと手を置き、額に触れるだけのキスをした。

「美羽、おやすみ……」

唇に、全神経が集中した。美羽に唇で触れたわずかな面積から、美羽の肌の柔らかさと体温を感じた。

「匠くん、ありがとっ!おやすみなさい」

そう言った美羽が、ギュッ!と一瞬、俺に抱きついた。すぐに離れると、恥ずかしそうに微笑んでリビングの方に駆けていった。

っっ!!……腰が抜けそうになるのを、なんとか堪えて自宅に戻った。

俺の顔は、絶対美羽以上に、真っ赤になっているはずだ。

……大丈夫じゃなかった……全然、全く!……大丈夫なんかじゃ、なかった……

その日夜、なかなか寝つけなかった俺は、浅い眠りの中で夢をみた。

『匠くんっ!』

ランドセルを背負った美羽が、満面の笑みを浮かべて、俺に走り寄ってきた。

『美羽、どうした?』

『あのね、匠くん!……キス…して?』

軽く息を弾ませながら頬を赤く染めて、美羽が言った。

『美羽?』

俺は目を丸くして、美羽を見つめた。

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