呼吸(いき)するように愛してる
「匠が考えて決めた事なら」と。あまり深く追及されなかったのもありがたかった。

それまでより、ランクが上の大学に変えたせいか、クラスの担任も「がんばれ」と言っただけだった。

必要以上に、受験勉強にのめり込んだ。

美羽にもできるだけ会わなかったし、おやすみのキスをするような状況になってしまっても、あっさりとしてすぐに離れた。

悪夢をみる回数は、努力?の甲斐もあってかずいぶんと減った。

ただ、たまに悪夢をみた時が濃厚で、美羽への想いがなくなった訳ではないと思い知らされる。

受験勉強をしながら、淡々と日々を過ごすようにしていた。何にも惑わされない、心が揺らがないように。

無事、大学も決まり、俺は心底ホッとした。離れてしまえば、甘すぎる悪夢からも解放されるはずだ。

美羽のショックを考慮して、俺がどこの大学に行くのかは、しばらく美羽には話さない事になった。

今の美羽なら、そんなにショックを受けないかもしれない……そんな風に考えて、虚しくなった。

俺の予想に反して、俺が遠くの大学に行くと知った美羽は、かなりショックを受けたようだ。

俺が家を離れる日、多分朝食を食べてすぐにやって来た美羽。

俺の部屋で美羽と向かい合う。こんなにじっくりと美羽の顔を見るのは、久しぶりな気がした。

今日家を離れたら、大学に行っている間は美羽と会わない。……もしかしたら就職も、あっちでする事になるかもしれない。

だから、今日はちゃんと美羽の顔を見ておこうと思った。

「美羽!」

愛しい想いを込めて名前を呼ぶ。ベッドに腰かけている俺の前に、美羽が立った。

「寂しい」と涙が今にも溢れそうな瞳で、俺を見つめる美羽。

「美羽にそんな顔されると、行くのやめようか…なんて気になってくる。…やめられるはず、ないのに……」

< 257 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop