呼吸(いき)するように愛してる
それからの事は、何だか記憶があやふやだ。

いつもは、できるだけ匠くんが帰ってくるのを待っていて、お料理をうちに運ぶのを手伝ってもらうのに……

今日は匠くんに会いたくなくて、慌てて帰ってきた。ボ~…としている私が頼りなかったのだろう。ともママが、お料理を運ぶのを手伝ってくれた。

私が「匠くんに会いたくない!」と、思う時がくるなんて……

優しい味のクラムチャウダーとか、こんがり焼けたハーブ風味チキンとか、特製のブロッコリーのサラダとか……

ともママのお料理は、どれもおいしいのに、全然食べられなかった。食べても、味がよくわからなかった。

「また、熱が出るんじゃない?」と、みんなに心配をかけてしまったが。

「わかんない……」

何も考えられない私は、早々に夕食を切り上げ、自分の部屋に戻った。

お風呂は、今日はいいや……ハミガキをして、パジャマに着替えて、もう寝よう。

仕上げ磨きをしてもらいに、お母さんの所に行ったら、びっくりして私の部屋までついてきた。

「美羽、大丈夫?頭や喉は痛くない?」

私の顔を覗きこんで訊くお母さんに、少し申し訳ない気持ちになる。

「…どこも痛くない。でも、今日は早く寝たい……」

お母さんは、そう言った私の頭を撫でた。

「そっか……どこか苦しくなったら、すぐに教えてね」

お母さん、胸が苦しいよ……

心の中で呟くと、ベッドに横になった私は目を閉じた。本当は、一人で泣きたい気持ちだったけど、お母さんが傍にいるから……

そんな事を思っていたら、いつの間にか深い眠りに落ちていた……


*****



翌朝は、いつも通りに起きた。

私の心は、海の底まで落ち込んでるけど、たっぷりと寝たせいか、頭はスッキリしている。

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