呼吸(いき)するように愛してる
そう言って、ずっと長かった髪を切ってもらった。

……本当は──

私はもう、匠くんの為に早く大きくならなくてもいいし、「可愛い」と思われなくても、いいから……

だから、髪の毛を短く切ってみた。

髪の毛を切ったら、華奢な身体の私は、服装によっては男の子みたいに見える時があった。

「美羽ちゃん、美少年になったわね!……○ニーズ事務所に、写真送ろうかしら?」

なんて、時々ともママにからかわれてしまう……

髪の毛を切って、初めて会った時の匠くんの表情は、はっきりと覚えてる。

目を大きく見開いて「…美羽……?」と、私の名前を呟くように言った。

初めての短い髪の毛が恥ずかしかったし、匠くんの様子に、少し戸惑って「ヘヘヘ」と笑いながら匠くんに近付いた。

匠くんの少し手前で立ち止まると、匠くんが私の髪の毛にそっと指を通した。

その感触がくすぐったくて、私は肩を竦めた。

「匠くん、くすぐったいよ……」

私の髪型に、匠くんも少し戸惑ったようだ。ゆっくりと何度も髪の毛に指を通し、最後には、いつもの優しい微笑みを浮かべながら、言ってくれた。

「美羽、髪切ったんだ……うん、可愛い……」

私は、その笑顔と言葉に、キュン!となった。

「大好き!」と伝えられなくても、“大好き”の気持ちは変えられない……

私は、匠くんの笑顔を見つめた。


私が小学五年生、匠くんが高校三年生の終わり、私に予想外の出来事が起きた。

匠くんが、県外の大学に進学する為、遠くに行ってしまうというのだ。

私がその事を聞かされたのは、匠くんが家を離れる二~三日前で、最後に会えたのは、その出発日当日だった。

去年、調理の専門学校にいく為、要お兄ちゃんが家を出た。聡くんとともママのカフェで、働きたいそうだ。
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