呼吸(いき)するように愛してる
匠くんが高校生になって、夕食も自分達で準備するようになった。

その頃から、要お兄ちゃんはよくお料理を作っていて、たまに食べさせてもらった。

要お兄ちゃんが、ニコニコしながら作るパスタやスープやいろんなお料理は、どれも何となくおしゃれで、おいしかった。

そう、匠くんが家を離れる可能性だって、あったはずなのに……

私がショックを受ける事を考えて、ギリギリまで教えない事を、両家で決めたらしい。

匠くんの出発の日、私は、朝食を食べると、すぐに匠くん家に行った。

匠くんは、自分の部屋にいた。ノックして入ると、匠くんはベッドに腰かけていた。

「美羽!」私を見て、微笑んだ匠くん。その笑顔にキュン!としながらも、その笑顔が遠くに行ってしまうと思うと、ツキンと胸が痛くなる。

もっと小さな頃なら、飛び付いてギュッ!と匠くんを抱きしめたのに……

「本当に、行っちゃうの……?」

匠くんの前に立ち、匠くんのきれいな瞳を見つめながら言った。

「うん……行ってくる!」

「私…寂しいよ……」

家を出る前お母さんに、「匠くんを困らせるような事、しちゃダメよ!」と言われたけど……

「笑顔で送ってあげなさい」と、お父さんには、言われたけど……

ごめんなさい!私には、できません。……それでも、涙が溢れてしまわないように、精いっぱい目には力を入れている。

涙が溢れそうな瞳で匠くんを見つめていると、匠くんが眉尻を下げて笑った。

「美羽にそんな顔されると、行くのやめようか…なんて気になってくる。やめられるはず、ないのに……」

「っ!……ごめんなさい!…笑顔で、お別れにきたはずなのに」

私が、無理して口角を上げて笑ったら、その拍子に、瞳から涙がツッ…と流れてしまった。

「っ!」

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