今日から魔王はじめます!
「……まぁいいけど。愛美は、どうしてここに来たんだよ?」


「私は交通事故に遭って、ここに。レンが亡くなってるって言うなら、私も死んだのかもね」


「…そういうことなら恐らくそうだろうな。


それで、その黒髪黒目で魔族たちに祀り上げられて、魔王になったってわけか。


…お前も大変だなぁ」



あ、さり気なくだけど、『君』が『お前』呼ばわりになった。


とんだ猫かぶり王子様である。


美しいのは顔だけか。心根が美しくなくて王様なんか務まるのか?



「それで、魔力はあるのか?」


「一応、黒い炎は操れたみたいだけど…まだよくわからないかな。


レンは勇者としてアルフレッドさ……“獣の王”に挑んだの?」


「いや、中央海原の海戦の和解交渉に行っただけだ。


ま、それでいろいろあってここにいるってわけだな」



少し話しづらそうにレンは私から目をそらす。


ガシャン、と少しだけ鎖が金属音をたて、胸が痛んだ。


レンも、元日本人なら、ずっと平和に過ごしてきたはずだ。


それなのに、いきなり“勇者”になって……。



やはり、私達の理解者は私達しかいないだろう。
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