今日から魔王はじめます!
「…どうして、なんですか?あの兵士さんが言ってました。


休戦協定を結んだのは、ランスさんなんですよね?」


「…ええ、その通りです」



ランスさんはうつむいた顔を上げると、止めていた足を再び動かし始めた。


私は置いていかれないよう、あわててそれに続く。



「確かに私が人間と魔族の休戦協定を結びました。


そして協定を破り、戦争を開始させたのもまた、私のようです」


「え…?ようですって…」


「……身に覚えがないことなのです」



なんですって…!?



「…しかし、書類の署名は確かに私の筆跡でした。


書類にサインをするところも、たくさんの部下が見ていた…。あれは私自身が書いたもの…間違いありません」


「そのことを、誰かに話したりとかは…?」


「できるはずがありません。しかし私の記憶に、そのような場面はない。


かといって、私を操る魔術が使えるほどの実力者は、この世にはいません」



つまり、ランスさんは、身に覚えのない汚名を被ったまま、過ごしてきたんだ。


兵士さんに、『お前には関係ないことだ』と言って逃がしたあの時。


ランスさんは、どのような気持ちでいたのだろう。
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