今日から魔王はじめます!
「それでは、夕餉になりましたらお呼びいたしますので、


どうぞごゆっくり」


「はい。ありがとうございます」



ランスさんは微笑み、音を一切立てずに部屋を出て行った。


その流麗な動作に見とれつつも、私はとりあえず天蓋付きのベッドに歩み寄り、


そこに腰掛ける。



持ちっぱなしだったカバンを開け、なんともなしにスマホを手に取ってみる。


日本にいた証拠は確かにここにあるのに、もうずいぶん故郷が遠いような気分だ。



「あの兵士さん…無事なのかな」



ちゃんと国に戻れたかな。


奥さんと子供に会えたかな。


それでもやっぱり…魔族を憎んだままなのだろうか。



電源をつけてないスマホの液晶画面に、私の顔が映る。


黒髪と黒い目。


どうして、魔王に選ばれたのが私だったのだろう。


他の人…例えば、美咲先輩みたいに、私より可愛くて強い人なんていっぱいいるはずなのに。



なんでなんだろうな…。
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