東方想雨天
 霊夢はここに至るまでの経緯を全て知っている。魔理沙が石にされたのも、早苗が飲み込まれたのも。そして、この蛇が諏訪子の影だということも。蛇は霊夢が先程の2人より弱く見えていた。2人より生気が無く、自我で働いていないということを見抜いていた。だが、何故か分からないが身体が警戒信号を発している。こんな弱そうなのに、何か秘めたるものに恐怖してしまっている。蛇は戸惑うことしか出来なかった。それを見かねた霊夢は、先手を取ってスペカを発動した。
「夢符……『封魔陣』」
 蛇の舌に五芒星の波紋が刻み込まれ、蛇の動きを封じ込めた。更に、霊夢は続けた。
「神技『八方鬼縛陣』」
 五芒星の波紋から鬼針付きの鎖が出現し、蛇の身体中を刺し絞めた。蛇には本来痛みは感じないが、何故かこの針には傷がついた。それに気付いた霊夢はまたスペカを取り出した。
「夢符『対魔針乱舞』」
 無数の針が蛇を四方八方から刺し続けた。蛇はこの永久的に続くこの痛みに悶絶し、意識が保てなくなった。そうして、蛇は息絶え、姿を消した。すると、空から2つの大きな光が舞い降り、地上に着くと、中から早苗と諏訪子が現れた。2人とも衰弱していて、霊夢はすぐに本殿の方へ避難させた。後から、加奈子が手助けとして2人の看病を任された。一方、魔理沙は石化したままで助かってはいなかった。霊夢は符を取り出し、スペカを発動した。
「祈願『厄除け祈願』」
 魔理沙の周りが白く囲まれ、石化が解けると、魔理沙は霊夢の方へ倒れた。霊夢は魔理沙を抱き抱え、布団まで運んだ。そして、全てが終えた所で守谷神社を後にしようとした時、加奈子に止められた。
「何?」
「今回の件、助かったよ。早苗には気を付けるよう言っておいたんだが、結局この様だったからね」
「修業不足なんじゃない?自分に慢心しないでひとり立ち出来るぐらいにはなってもらわないと」
「あぁ、確かにな」
「話はそれだけ?私、急いでるんだけど」
「まぁ、待ってくれ。私としては今までの経緯を知りたい。なぜ、諏訪子がこうなってしまったのかをな」
「………。ま、いいでしょ。少し長くなるけれど」
「あぁ…。頼む」
 霊夢は話した。今回は永久的に続く梅雨の異変だけではなく、その者の深層心理・本来の姿を具現化し、本人の無意識下で現れる影のことも全て。そして、今回の諏訪子の影についても全て話した。諏訪子は、自分の影の存在を認識し、森の奥深くで影と闘っていた。が、結果敗れた本人は、影に食べられ一時この世から存在を消された。因みにあの時、神社にいた大量の蛙は諏訪子の蛙達で、影と闘う前に予め神社を守るように言われて溢れかえっていたという。しかし、魔理沙と早苗が守谷神社にたどり着くほんの数分前に、諏訪子の影が神社に着き、全て残らず食い殺したというのだ。全ての全貌を聞いた加奈子は、まだ理解仕切れていなかったが、霊夢一人で行かせるのはあまりに無謀に近いと判断し、魔理沙と早苗が回復するのを待つよう促した。
「断る」
「なぜだ?たとえ、一人で出来るからって何も一人で行く必要はないはずだ。サポート役としてでも連れて行った方がいいはずだ」
「それが邪魔だって言ってるの。それに、相手は私だけを狙っているみたいだし」
「それは……どういう……」
「それじゃ、そいつらの看病よろしく」
「待て……!霊夢!」
 霊夢は本殿を出て、空高く飛んでいった。それを見送るしかない加奈子の後ろに、まだ衰弱して膝もガクガクな諏訪子が寄り添ってきた。
「諏訪子……無理をするな。まだ、解放されて間もないんだ。寝てろ」
「うん……。今回の……あの……巫女…。何か……焦ってるよね」
「あぁ……。まるで、自分の闇に畏怖してる……そんな感じだ」
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