ごめんね、キミが好きです。～あと0.5ミリ、届かない想い～
　あのとき、日頃見下している相手の目の前で坂井君にやり込められたのがよほど悔しかったのか、遠藤さんの態度も言葉も、これまでにないほど露骨な悪意に満ちていた。

「よく言えるねそんなこと！　あんた恥ずかしくないの！？」

　千恵美ちゃんはかなり本気で怒っているらしく、顔全体が真っ赤に染まっている。

　肩を怒らせ、目を吊り上げ、毛を逆立てた猫のようになって、あたしを守るために遠藤さんを威嚇していた。

　千恵美ちゃんは盾になってくれている。

　イジメを受けている子を庇う行為は、とばっちりを受けて自分までイジメられる危険を伴うのに、そんなこと百も承知でそれでもあたしを守ってくれている。

　なにを言われても、黙ってヘラヘラ笑ってやり過ごしているだけのあたしを。

「恥ずかしいのはそっちでしょ？　頻繁に病院通いを続けるのだって、本当は『移植を受けた私』を演出したいだけなんじゃない？　それともほんとにまだどっか悪いわけ？　その目」

　千恵美ちゃんとの言い合いに興奮したのか、それとも他者を非難する自分の言動に酔っているのか、遠藤さんの悪意のエスカレートは止まらない。

　あろうことか遠藤さんは、あたしの保護メガネの上から左目を狙って、人さし指をグッと押しつけてきた。

　呆気にとられた千恵美ちゃんの両目と口がポカッと開いて、すぐに怒りの形相に変わる。

　でも大きな口を開いた千恵美ちゃんの怒声を聞くより前に、あたしは保護メガネから遠藤さんの手を強く払い除けた。
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