ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
 昨日の夜中、冷たい飲み物が欲しくて自分の部屋から一階へ降りたあたしの神経が、リビングの方から聞こえてくる家族の声に敏感に反応した。

『どうなんだ? もうそろそろ拒絶反応とか後遺症の心配は、しなくてもいいんじゃないのか?』

『そうでもないらしいの。手術をした目は強いストレスを受けているから、色々と後遺症が出る可能性はずっと消えないらしいの』

『色々って、具体的にどんなだ?』

『なんでも白内障とか……』

『んまあ、白内障!? それはあたしたちみたいな年寄りがかかる病気でしょう!? まだ高校生の翠ちゃんがそんな病気になるなんて!』

『あ、いえ、必ずなると決まったわけではないんですが……』

『だが普通より可能性は高いんだろう? 可哀そうに。翠はそんなリスクを一生抱えて生きていかなきゃならないんだな』

『本当に可哀そうだねぇ。翠ちゃんはなにも悪くないのに、なんでこんなに運が悪いのか……』

 リビングから漂ってくる沈み込んだ空気は、いつもの空気。

 子どもの頃から何度感じても、絶対に慣れることのない、重苦しい痛みを伴う暗黙の空気。

『翠がこんなことになってしまったのは、母親のせい』

 見なくても手に取るようにわかる。

 お母さんはお父さんたちに囲まれて、背中を丸めて青ざめていたことだろう。
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