ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
 大好きだよ、ばあちゃん。大好きだよ。

 たとえあなたが、俺のことを忘れてしまったのだとしても。

 二度と意思を通わせ合うことはできなくても、もうあなたから愛されていないのだとしても、それでも大好きだよ。

 だってあなたは、いつも惜しみなくすべてを与えてくれて、目を細めて綺麗に笑い、俺の頭を優しく撫でて、そうして生きた。

 思い通りに動かなくなった手足を抱え、大切な物を日々喪失していく恐怖に怯え、やがて、その恐怖すらも忘れて、現実とは違う世界の住人になっても……

 それでも、あなたはおそらく命が尽きるその瞬間まで、『人が生きる』ということを、その身をもって示し続けるんだろう。

 そんなあなたが、大好きだよ。

 通じるうちに、言えなくてごめん。

 でも、やっとこうして言えたよ。ばあちゃん。

 ばあちゃん……。

「……」

 そのとき、まるであたしの声が聞こえたように、ばあちゃんの目がゆっくりと開かれた。

 薄っすらと充血した目が頼りなく宙を彷徨い、坂井君の顔を見る。

「……あれまぁ、望か?」

 名前を呼ばれた坂井君が、弾かれたようにばあちゃんの顔を覗き込んだ。

「ばあちゃん!? 俺のことわかるの!?」

「はあ? なに言ってんのあんた、変なこと聞くねぇ」

 ばあちゃんはクシャリと相好を崩し、しゃがれた笑い声を上げた。
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