ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
「眠っちまったな。……行こうか」

 坂井君に促されて、あたしは咽び泣きながら部屋を出た。

 拭いても拭いても次から次へと涙が溢れて、鼻が詰まって息苦しくて、口を開けば嗚咽が漏れる。

 気を利かせてくれた坂井君が、玄関近くのホールのソファーにあたしを腰掛けさせて、しばらく休ませてくれた。

 しかもあんまりあたしが人目も憚らずに大泣きするもので、心配して駆け込んできた職員さんに、あたしの代わりに平謝りしてくれた。

 ……ずっと、泣いてはいけないと思っていた。

 あたしが泣くことは、許されないと信じ込んでいた。

 でも今こうして、ハタ迷惑なほど思うさま泣きながら、それは間違いだったと思い知る。

「坂井君」

「ん?」

「あたしさっき、角膜を移植したことを罪悪だって言ったけど、取り消す」

 あたしは奪ったんじゃなく、受け継ぐことができたんだ。

 ばあちゃんから叶さんへ、そして叶さんからあたしへ、ほんの断片だったとしても、受け継いだからこそ叶さんの思いも伝えることができた。

 叶ったんだ。彼の心からの言葉を、願いを、伝えることが叶ったんだ。

 それが罪悪であるはずがない。

「坂井君、ありがとう」

「いや、俺はべつになんもしてねえし。ただ俺も兄貴が死んで、兄貴の角膜が提供されたことがあんまりにも突然すぎてさ、正直その事実をどう受けとめればいいのか混乱してたんだ」

 ふるふると首を横に振る坂井君の唇から、丁寧に、訥々と言葉が紡がれていく。

「でも角膜を受け取った小田川が、兄貴の思いを伝えてくれるのを目の当たりにできたおかげで、理屈じゃない何かを受け止めることができた。その何かを“言葉”っていう形にするのは難しいけどな。でもだからこそ小田川にも、移植したことに対して罪悪感だけは持ってほしくなかったんだ」

「うん。あたしもう二度と罪悪感なんて持たない」
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