ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
 ひときわ大きく鼻をすすり上げて息を整え、頬に残った涙を手の甲で拭いて、あたしは断言した。

 保護メガネで覆われていない顔を、こんな真正面から坂井君に見られるのは初めて。

 それでも堂々と坂井君を見上げることができたあたしを、坂井君は嬉しそうに見つめている。

「帰ろう、小田川」
「うん」

 ホームの玄関から一歩外へ出ると、まだ明るさの残る空に浮かんだ白い雲が、ほんの少しだけ薄紫に染まりかけている。

 夏の熱さと湿り気が混じった空気を流すように吹く夕方の涼風が、半袖から伸びた腕の皮膚と、高揚する心を宥めるようにそっと冷まして、心地いい。

 坂井君と並んで見上げる夏の夕暮れの西空が、澄んだ青と、淡い藍と、極薄の金色に染まっていていく。

 あたしと坂井君はカラスの鳴く声を聞きながら、お互いの腕と腕が触れ合いそうな距離で、ホーム前のバス停に静かに立っていた。

 やがて到着したバスに乗り込んで、待ち合わせに利用したバス停で降り、家へと向かって歩き始める。

「家まで送るよ」

「ううん、大丈夫だよ。ひとりで帰れるから」

「門限破らせちまったから、俺が家の人に謝る」

「ありがとう。でも本当に大丈夫。それはあたしがやるべきことだから」

 家に帰ればたぶんお母さんから、狂ったように怒鳴りつけられることだろう。

 もちろんそれはすごく不安で、ひどく緊張もするけれど、だからと言って坂井君を盾にはしない。
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