ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
「それならせめて、近くまででも送らせてくれよ」

 その申し出はありがたく受け入れさせてもらって、あたしは坂井君と並んで歩き出した。

 ほんのしばらく歩く間にも世界はどんどん日暮れていって、天も空気も何もかも、刻一刻と鮮烈な金に染まっていく。

「綺麗だな」
「綺麗だね」

 空を見上げてたったひと言、あたしたちは言葉を交わした。

 家路を急いで道を行き交う人たちも、世界を染める黄昏色に溶け込みながら、あたしと坂井君のように顔を上げて、昼間の喧騒を忘れたようにわずか一瞬の夕映えに見惚れている。

 視界一杯に広がる、こんなにも美しい世界と、あたしの隣を歩く坂井君。

 それは贈り物なんだ。

 叶さんからの、このうえなく素晴らしい贈り物なんだ。

「坂井君、ここでいいよ。ありがとう」

 家へ続く道へ入る曲がり角で足を止めたあたしを、坂井君は黙って見つめている。

 ひどく気がかりそうな彼に向かって、あたしは笑って手を振りながら、「また月曜日にね」と挨拶して歩き出した。

 そんな心配しなくても大丈夫だよ、坂井君。

 あたしも帰るよ。自分の家に。

 帰りたいと願い続けていたあの日に、きっと帰ってみせるよ。

 しばらく歩いて振り返ってみたら、さっきの場所から一歩も動かずにあたしを見送っている坂井君の姿が見える。

 もう一度大きく手を振って、あたしは角を曲がった。
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