ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
 そして数メートル歩いたら、「翠ぃ!」という金切り声が耳に飛び込んできた。

 見ればお母さんが、半狂乱の表情で自宅の門から飛び出してくる。

「翠! 翠! 翠!」

 全力で突進してきたお母さんに、あたしは息もできないくらいギュウギュウと抱きしめられた。

 まずは、何はともあれ『ごめんなさい』と謝るつもりだったんだけれど、あまりの苦しさに声も出ない。

「よかった! 無事でよかった! 本当によかった!」

 頬ずりしながら、ひとしきり叫び続けたお母さんの興奮が、ようやく少しずつ収まってくる。

 あたしを抱きしめる腕の力は弱まったけれど、いったん鎮まった感情は、すぐに強烈な怒りへと変わったようだ。

「翠、いま何時だと思ってるの!? どれほど心配したと思ってるの!? なんでちゃんと連絡しなかったの!?」

 涙で潤んだ両目を吊り上げ、青ざめた顔で叫ぶお母さんに、あたしはまずきちんと謝った。

「お母さん、心配かけてごめんなさい」

「どんなに謝っても、どんなに後悔しても、時間は戻らないのよ!? 取り返しがしかないことになったら、どうするの!?」

 取り返しのつかないこと。あたしの左目を見ながらそう叫ぶお母さんの声は、悲痛だった。

 ちょうどそのとき、道の向こうから車が走ってくるのが見えて、あたしはお母さんの体を押すようにして道路の端へ寄った。

 なんだか見覚えのある車だと思ったら、それはお父さんが勤める会社の車で、運転席にはお父さんの姿が見える。

 徐行して家の駐車スペースに停車したその車から、神妙な顔をしたお父さんが降りてきた。
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