ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
 あたしの中の急激な変化を敏感に感じ取って、とまどっているのかもしれない。

「まあ、とにかく翠が無事に帰ってきてよかった。それじゃお父さんは仕事に戻るからな」

「待って、お父さん。ねえ、みんなも気がつかない?」

 玄関から出ようとするお父さんを呼び止めて、あたしはみんなの前で両腕を広げてみせた。

「どう? 気がつかない?」

「……なあに? 新しいワンピースのこと?」

「とっても可愛いし、よく似合ってるわよ? 翠ちゃん」

「違うよ。そうじゃなくて」

 まさかそんな答えが真面目に返ってくるとは思わなかったから、ちょっと笑いながら自分の目元を指さしてみせる。

「保護メガネしてないの、気がつかなかった?」

「……あ」

 お母さんが口元に手を当ててキョトンとした。

 みんなも『言われてみれば』といった表情で、あたしの顔に見入っている。

「翠、メガネはどうした? どこかに置き忘れたのか?」

「ううん。ちゃんと持ってる。つけていないだけ」

 みんな、気がついていなかったわけじゃないと思う。だってさすがに、あれだけ目立つ物なんだから。

 お母さんにとっては、御守りみたいな物だったし。

 ただ、他のことで頭が一杯で、保護メガネのあるなしなんて、すっ飛んでしまっていたんだろう。

「その程度なんだよ。もう、その程度のことなんだよね」

 あたしが繰り返す言葉の意味を計りかねているのか、みんな怪訝な表情を浮かべている。

 そのひとりひとりを順に眺めて、あたしは、きっぱりと言い切った。

「ねえ、あたしも自分を責めるのはやめにするから、みんなもあたしの目のことで、自分や誰かを責めるのはやめて」
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