ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~
「でもまさか……ありえないのに」

 思わずそんな独り言をポツリと漏らすあたしの脳裏には、ネットで見つけたあの記事が浮かんでいた。

 移植された臓器に、ドナーの記憶が宿っているなんてこと、本当にあるんだろうか。

 そんなこと常識的にありえない。そう笑い飛ばして否定したいのに、振り払い切れない疑惑と不安はあたしの中でどんどん強まっていく。

 そして不思議な予感めいた確信が、心の奥底から夏の入道雲みたいにモクモクと大きく膨れ上がった。

 この角膜と彼は、きっと無関係じゃないんだろう。

 だって角膜を移植した直後から、見知らぬ彼の夢を見るようになったんだもの。

 これで無関係だと思い込もうとしたって、そっちの方が無理がある。

 あたしは保護メガネの上から両手で顔を覆い、その場にヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。

 さっきまで晴れ晴れと広がっていた180度の視界は閉ざされて、指の隙間から灰色のコンクリートが僅かに見える。

 中途半端に狭い視界と、砂埃の混じった灰色があたしの現状と未来を暗示しているように思えた。
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