イジワル副社長に拾われました。
ふと気づいて手にしたそれは、とてもキレイな色のリップグロス。

テキパキと準備をしていた大西さんが、「ああ、それ」と微笑む。

「これ、春の新商品のグロスの限定色。今日はこのグロスを惹きたてるメークをしたモデルさんの撮影なのよ」

「そうなんですね。すっごくキレイな色。私も使ってみたいです!」

「ふふ。桐原さんもやっぱり女の子ね」

「え?」

「さっきまで少し不安げな表情だったけど、このグロスを見た瞬間に目が輝いちゃって」

面と向かって言われてしまうと、少し照れくさい。

でも確かに、このリップグロスを見て、心がときめいてしまったのは事実。

「でもきっと、今からもっと目が輝くはずよ」

ニッコリ笑う大西さんの後ろで、トントン、とドアをノックする音が聞こえてきた。

「はーい」

大西さんが扉を開くと、そこに現れたひとりの女性。

「う、そ……!」

私は思わず言葉を失う。

スラリと伸びた長い手足。

拳ほどの小さな顔に、バランスよく詰められた綺麗なパーツ。

「おはよう、未来ちゃん。今日もよろしくね」

「こちらこそよろしく、咲良ちゃん」

その人物は、世の女性が憧れてたまらないであろう、人気モデル。

瀬戸咲良(せと さくら)、その人だった……!




咲良さんは現在三十二歳。

中学三年生の時に芸能界デビュー。

高校生の時にティーン雑誌の専属モデルとなり、モデルデビュー。

彼女が雑誌で着用したり愛用を公言した商品は、彼女に憧れる同世代の女の子たちからの圧倒的な支持を受け、売り切れ続出。

そんな現象を、世は『サクラ咲く』現象と呼んでいる。

二十八歳の時に、同じくモデルで俳優もこなす片山翔(かたやま かける)さんと結婚。

翌年に長男を出産して、復帰してからも人気が衰えることなく、今も同世代からの圧倒的人気を誇っている。

そんな大スターが私の目の前にっ!

そして、私の名前を聞いてくれて、しかも「よろしくね、琴乃ちゃん」って名前まで呼んでくれた~っ!

「大西さん……」
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