イジワル副社長に拾われました。
肩をすくめながら「怒られちゃった」って言う咲良さんに、私も同じ表情で微笑み返す。

さっき私が手に取ったグロスが咲良さんの唇に塗られて、

「よし、完成!」

咲良さんの肩にポン、と大西さんが手を置く。

そして、鏡越しに、ふたりが微笑みあった。

「キレイな赤……!」

思わず私の口からこぼれたのは、リップグロスの感想。

さくらんぼのような鮮やかな赤色が、咲良さんの唇にのっている。

女性の私でも思わず触れたくなるようなキレイな色。

「さっきも言ったけど、今回のポスターの主役はこのグロスだから、アイメークやチークの色は少しだけ抑えているの」

大西さんの言うように、アイシャドウの色は落ち着いたベージュ系でまとまっているし、チークも淡いピンク色だ。

『自分のところの商品を一番上手に使えるのは、自分のところのアーティストだっていう自負がある』

白井さんのさっきの言葉が頭によみがえる。

白井さんのあの言葉。それは大西さんの技術を知っているからこそ出た言葉なんだ。

「琴乃ちゃんの心に響いたみたいだし、今回もきっと大丈夫ね」

咲良さんの言葉に、大西さんも深くうなずく。

「ええ、もちろん。今回も女性たちの心をつかみましょ」

大西さんが椅子を引き、咲良さんが立ち上がる。

「じゃあ、行こうか。……未来ちゃん、サクラ、咲かすからね」

大西さんは黙って親指を立ててうなずいた。




大西さんのメイク室の片づけを手伝った後、ふたりでスタジオに行くと、すでにポスター撮影は始まっていた。

照明が輝く中心には、キラキラ光る咲良さんの姿。

スタジオの端には、撮影を黙って見つめる白井さんの姿もあった。

壁に背中を預けて、軽く腕を組んでいる白井さんの姿は、遠目から見ても男前だ。

「黙ってたらかっこいいんだけどなあ」

「あら、それって航のこと?」

心の中でつぶやいたはずの独り言は、どうやら外にもれていたらしい。

私の声を拾った大西さんが、首をかしげる。

「だって、あの人結構毒舌ですよね。傷心の私に対して容赦ないんですもん」

「フフッ、そうね。確かに口は悪いわね。でも意外といいところあるのよ?」

「えー、そうなんですかあ?」
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