イジワル副社長に拾われました。
「もちろん、ちゃんとやってくれて助かってるよ」

「ホントですかあ? 今もチョコ持ってはしゃぎまわってますけど」

「し、失礼なっ! 確かに今、康太郎さんからチョコもらって休憩しようとしてますけど、さっきまではちゃんと仕事してましたよっ!」

「どうだか」

白井さんは、時々こうやって現れては私をからかって帰っていく。

「桐原雇ったのは俺だから、面倒見る義務があるだろ」とは白井さんの言い分だけど、私には、からかって遊ばれているようにしか感じない。

それに……。

「航、琴乃ちゃんからかうのもそれくらいにしたら? 嫌われちゃうよ」

「別にコイツに好かれなくても結構だ」

「そんなこと言って。後悔しても知らないよー?」

私の様子を見に来るっていうのは方便で、未来さんに会いに来ているんじゃないのかな……。

白井さんと未来さん。

ふたりとも美男美女で、並んで歩く姿がとても画になる。

それは誰が見ても思うことらしく、時々社内でもふたりの噂を耳にすることがある。

『白井さんの相手が大西さんなら、仕方ないよね』

『お似合いのふたりよねぇ』

その噂を耳にするたび、私の心は少しだけチクン、と音を立てる。

このふたりがこれだけ噂になるのは、美男美女の組み合わせだからというだけではない。

『どうして白井さんの鶴の一声で、私は雇ってもらえたんですか?』

アルバイトを初めて数日後。

アーティスト部の皆さんが私の歓迎会を開いてくれた席で何気なく質問をしたら、未来さんがあっさりと答えてくれた。

『航ね、うちの御曹司さまなのよ』

創業者が祖父、そして現社長が母親という白井さんは、帝王学を学ぶべくものすごいスピードで色々な部署を経験し、もうそろそろ社長就任が近いんじゃないだろうかと社内で言われている。

あの容姿に次期社長の肩書があれば、狙ってる女子社員も多くて、そういうこともあってか白井さんは噂の的になりやすい。

中でも、未来さんとは年齢も同じで仲がいいため、いろんな憶測が流れている……とは、康太郎さんの談。

康太郎さん曰く、「いやあ、あのふたりは単に仲がいいだけだと思うけどね」とは言うものの、私にはそれだけではない親密な雰囲気も感じていて……。

「わ、私、飲み物買ってきます!」

なんとなくその場にいるのが嫌で、大きな声を上げた。



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