イジワル副社長に拾われました。
「桐原さんは、わかりやすいね」

康太郎さんとふたりでやってきた休憩室。

ガコン、と音を立てた缶コーヒーを取りながら、康太郎さんが笑う。

「……何がですか」

「気づいてないの? 自分の気持ち」

「なんのことだか、さっぱりです」

「認めちゃったほうが楽なこともあるかもよ」

俯いた私に、康太郎さんはそれ以上のことは言わなかった。

自分でも、なんとなく気づいている。

でもまだ、この思いに名前をつけるのは怖い。

一か月前の苦い記憶が、まだ私の頭の中に残っているから――

もう、あのときのようなつらい思いは二度としたくない。

だから私は、白井さんを見てドキドキする気持ちに気づかないふりをする。

ううん、気づかないふりをしていたいんだ。






営業部に用事があるという康太郎さんと別れ、アーティスト部へと戻ると、ちょうど未来さんが部屋から出てくるところだった。

「あれ? どこか行かれるんですか?」

「うん、ちょっと開発部から新商品の件で話を聞きたいって言われてね」

「ええー。せっかくお茶しようと思って飲み物買って来たのに……」

「ごめんねぇ。あ、でも航がまだいるから、一緒に休憩するといいよ。じゃ、行ってきます」

カツカツ、とヒールの音を軽快に鳴らして廊下を歩く未来さんを見送ってアーティスト部の扉を開けると、白井さんがひとり、椅子に座っていた。

長い足を軽く組んで、資料らしきものを静かに読んでいる横顔は、相変わらず美しい。

「お、戻ったか。俺のコーヒー買って来てくれたんだろ?」

「あ、はい。どうぞ」

気配に気づいて資料から顔を上げ微笑む白井さんに、買ってきたコーヒーを手渡す。

私はチョコレートの包装を開け、白井さんに差し出した。

「チョコレートもどうですか?」

「……いや、俺はいいから、お前が好きなもの選んで食べろ」

「はい」

白井さんの言葉に甘えて、美味しくいただこう。

まるで宝石のような美しいチョコレートをながめて、どれから食べようか思案していると、横から「ククッ……」と、笑い声を我慢するような声が聞こえてきた。

「……我慢しきれていないですよ、白井さん」

「悪い。お前が子どもみたいなキラキラした目ぇしてチョコ選んでるからおかしくて……」

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