イジワル副社長に拾われました。
「桐原さんのイラストは、いつも見ていて温かい気持ちになるよ」

「うわ、嬉しい。ありがとうございます!」

「きっと桐原さんの優しい心が表れているんだろうね」

「そ、そんな。言いすぎですっ!」

そうやって優しく微笑む彼に、憧れ以上のモノを抱くようになった。

お花見をキッカケに時々ふたりで飲みに行ったり、休日にお出掛けするようになってからしばらくして。

「俺と、付き合ってくれませんか?」

そんな言葉をもらって、私は迷うことなく頷いた。




あれから二年。

三十歳を目前に控え、結婚、の二文字も何となく意識し始めたこの頃。

なのに、勤から出た言葉は逆の言葉だった。

茫然とする私に、ふたりの言葉が重なるように続く。

「実は、希美のお腹に子どもがいるんだ」

「ごめんなさい、センパイ。わたし、どうしても勤さんのことが諦めきれなくて。恋人がいてもいいからって。一度だけって……」

「希美だけが悪いわけじゃないんだ。俺もお前を裏切った。悪いのは俺だ」

「勤さんのせいじゃないわ。わたしがいけなかったの……!」

いやいや。どっちも悪いでしょうよ。

少しだけ気持ちが落ち着いてくると、色々なものが見えてくる。

思えば、今年入社したての希望ちゃんは、うちの会社の社長令嬢。

入った当初から、勤狙いを宣言して、アピールしまくっていた。

別に禁止されていたわけではないけど、交際していることを明かしていなかったおかげで、勤の恋人が私ということは知られてはいなかったことは幸いだった。

ま、この子のことだから、上手に勤を誘惑したんだろうなあ。

そして、まんまと引っかかって、妊娠させちゃったと。

「もう、いいよ」

「え……?」

「もう、いいから」

私が泣き叫ぶとでも思っていたのか、意外だという顔で私を見つめるふたりに笑いかける。

「キッカケはどうであれ、結婚してもいいとふたりが思ってるんでしょ? だったら私には何も言う権利はないよ」

目の前のコーヒーを飲みほして、カップをゆっくりとソーサーに置く。

「勤、いままでありがとう。希美ちゃんとお幸せに」

コーヒー代は慰謝料代わりに払ってもらおう。

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