イジワル副社長に拾われました。
そして約束の土曜日がやってきた。
普段は事務仕事のお手伝いをしてる私だけど、今日はちょっと手伝ってほしいということで、デパートの『プチ・リス』売り場で主催されるメイクアップ教室に、未来さんと一緒に参加することになっている。
「あら、琴乃ちゃん、スカートなんて珍しい」
未来さんに突っ込まれ、顔が熱くなる。
普段はパンツ姿が多い私。でも今日は白いニットにボルドー色のミモレ丈のスカートといういで立ち。
未来さんに突っ込まれるのも仕方がないかもしれない。
「仕事終わった後、友達と約束してて」
「へえ、そうなんだ」
ニヤリと笑った未来さんはまだ何か追及したそうな目を私に向けてきたけれど、
「行きましょう、間に合わなくなりますよっ!」
「はいはい。今日も頑張ろうね~」
グイグイと未来さんの背中を押して、目的地のデパートへと繰り出した。
『プチ・リス』のカウンターを借りて行われた未来さんのメイク講座は大盛況のうちに終了し、私と未来さんは帰路についていた。
「未来さん、ホントにすごいですねっ。私も横で見ていて勉強になりました」
「そう?」
「はい。だって参加した人たち、みんなキレイになっていくし。店員さんも未来さんの技術に関心してましたよ。聞きました? あのショートカットの店員さんいたじゃないですか?」
「ああ、あの小柄な可愛いらしい女の子?」
「そう、その人、未来さんに憧れてこの仕事してますって言ってましたよ」
「ホントに? それはうれしいなあ」
未来さんの笑顔に、私もつられて笑顔になる。
「琴乃ちゃん、私ね、キレイになりたいっていう人の手助けをできる今の仕事が大好きなの」
「うん、それは見ていて思います」
「だから、もっともっと自分の技術を磨いていきたい。もっともっとステップアップできたらいいな、って。そう思ってる」
「やっぱり未来さん、かっこいい……」
「調子に乗っちゃうから、それ以上褒めないで。駅に着いたし、降りるよ」
心の中で思ったことが声に出てしまったらしく、私の発言を聞いて、未来さんは照れくさそうに笑った。
タイミングよく電車も駅に到着して、私たちは電車から降りて、会社へと歩き出した。