イジワル副社長に拾われました。
ひとつ気になってくると、色々なパーツが気になってきて、私はポーチを抱えて立ち上がった。

幸いなことに白井さんからの連絡はまだ入っていないから、化粧直しをしておこう。

さすが美容業界の化粧室ということもあって、ビル内の化粧室には大きな鏡が完備してある。

せっかくだからそこで化粧直しをしようと、私はアーティスト部を出て化粧室へと向かおうと入り口のドアを開けたとき。

「あれって、未来さんと白井さん……?」

二十メートルほど離れた廊下の先、会議室に入っていくふたりの男女の姿が視界に入った。

見間違うはずはない。あれはきっと、未来さんと白井さんだ。

本当は近づかないほうがいいのかもしれない。そう頭ではわかっているのに、私の足は会議室のほうへ向かってしまう。

音を立てないように静かに近寄ると、会議室のドアは少しだけ開いていて、ふたりは向かい合うように立っていた。

白井さんの顔は私の角度からは見えないけど、向かいにたっている未来さんの頬には涙がこぼれている。

どうしたんだろう。いつも凛として、泣き言なんて言わない未来さんが、泣いている……。

見たことのない未来さんの姿に思わず立ち尽くしていると、白井さんが未来さんの肩に手を置いた。

「……大丈夫、絶対大丈夫だから」

「航っ……」

未来さんの体が、白井さんの胸に吸い込まれて。

そして、白井さんが未来さんの体を受け止めるのを見た瞬間、私は思わず声を上げそうになり、ポーチを持っていない左手で口を押さえる。

そして、そのままアーティスト部へと戻り、部屋のドアを乱暴に閉めると、私はドアを背に座り込んだ。

ポロポロと、目からこぼれる涙が頬をすべっていく。

普段泣く姿を見せない未来さんが、涙を見せる相手が白井さん。

その時点で、ふたりの関係は明白だ。

白井さんを見てドキドキしたり、からかわれるだけだけど、それでも話せてうれしかったりするその気持ちは、かっこいい芸能人に憧れるようなそんな気持ちだって、言い聞かせてた。

これを恋って認めたら、一か月前に苦しんだ自分と同じ思いをもう一度しないといけなくなる。

そう思って、私は自分の気持ちに気づかないふりをしていた。

「絶対違うって思ってたのに……」

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