イジワル副社長に拾われました。
「あと、今日桐原さんが航につかまることもないと思うから」

「え?」

ちょうどそのとき、心の中で白井さんにまた話しかけられたらどうしようと思っていた私は、びっくりして声が裏返ってしまった。

「アイツ、午後から終日会議の予定だから、桐原さんが定時で帰ればまず顔を合わすことはないはずだよ」

「そうですか。康太郎さん、ホントに鋭いですね」

「そうかなあ。桐原さんが鈍いだけじゃない?」

「えっ?」

そんなやり取りをしているうちに、目的の定食屋さんへと到着した。

店員さんに注文をして、私は昨日起こった出来事を康太郎さんに話し始める。

「……というわけで、未来さんと白井さんにどんな顔をして会えばいいのか、正直気持ちの整理がついていないんです」

「なるほど。で、航のことが好きっていうのはちゃんと自覚したんだ?」

「認めたくはないですけど……。これだけ落ち込んでしまうっていうことは、そういうことですよね」

康太郎さんに嘘をついたところで隠し通せそうにないのはよくわかったので、ここは素直に認めたところで、注文した定食が運ばれてきた。

「いただきます」

手を合わせて、ほかほかのご飯に手をつける。

「とにかく食事はちゃんと摂らないと。しっかり食べるんだよ」

土曜の夜から食欲もあまりなかったことを話していたからか、康太郎さんから声が掛かる。

「はい、わかりました」

「それと、航と大西のことだけど。あまり早とちりはせずに、ちゃんと話を聞いてから判断したほうがいい」

「……康太郎さんはそう言いますけど、でもあの未来さんが職場で泣き顔見せるんだから、絶対付き合ってるに決まってるじゃないですか。それともなんですか、絶対にふたりが付き合っていない証拠を康太郎さんは出せるっていうんですか?」

「まあ、出せるっちゃあ出せるんだけどさ。いや、でもこれは大西が話すっていうんだから、本人の口から聞きなさい」

「でも……」

やっぱり未来さんと顔を合わすのは気まずい。

だけど、これ以上ごねても、康太郎さんから話を聞くことは難しいだろうなあ。

そう思った私は、康太郎さんの言葉を信じて、未来さんの話を聞く決心を固めたのだった。






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