イジワル副社長に拾われました。
そして夕方。

「戻りましたー」

横浜へ行っていた未来さんが戻ってきた。

そしてそのまま、まっすぐ私の席へと向かってくる。

「琴乃ちゃん、土曜日はごめんね」

「い、いえ……」

未来さんを目の前にすると、土曜日に見た光景が目に浮かんでしまって、しっかりと未来さんの目をいつもの通りに見られない。

そっと下を向いた私を見て、未来さんが小さく息をついた。

「ちゃんと話すから、今日時間をくれないかな?」

未来さんの声は、いつも通り、とても優しくて心地いい。

「はい、わかりました」

泣きそうになる気持ちをこらえて、私は未来さんと目を合わせられないまま、小さくうなずいた。






会社を出てまず最初に行ったのは、デパートの惣菜売り場。

「今日はゆっくり話したいから、私の家で食事でいいかしら?」

そう言って未来さんは、サラダやローストビーフ、キッシュなどオシャレな惣菜を買い込んでいく。

「お酒は近所のコンビニで買うとして、デザートは何がいい?」

「あ、なんでもいいです」

「そう? じゃあ、プリンにしようかな」

どんどん買い物をすませる未来さんの後ろを、私はただついていくだけ。

デパートを出たあとは電車に揺られて未来さんの住むマンションへと向かった。

「あまりキレイにはしていないけど、上がって」

そんなことを言っているけど、玄関には小さい観葉植物が飾ってあるし、シトラスのいい匂いが広がっていた。

もちろん靴だっていっぱい出ていない。すごくキレイな玄関だ。

「お邪魔します……」

靴を脱ぎ、リビングに足を踏み入れる。

「適当に座ってて。今準備するから」

荷物を置いた未来さんがキッチンへと向かう背中を見送った後、私はオレンジ色のソファへと腰を掛けた。

ふわふわして、とても気持ちがいい。

何をしていたらいいのかわからなくてキョロキョロしていると、テレビの横に一枚の写真が飾ってあることに気がついた。

ソファから立ち上がって、写真に近づく。

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