イジワル副社長に拾われました。

すべては君次第


未来さんと宗介さんの部屋を出た白井さんは、無言のまま歩みを進める。

エレベーターで一階まで降りた後、しばらく歩いてたどり着いたのは、コインパーキング。

その中の一台の前で、白井さんが立ち止まる。

高級ブランドの黒い国産車は、私の持つ白井さんのイメージによく似合っている。

「……お前の家まで送ってく」

「あ、ありがとうございます」

助手席のドアを開けてくれた白井さんに促されるようにして、シートに腰を下ろす。

「家の住所は?」

私の告げた住所をナビに入力した白井さんは、ゆっくりと車を動かした。

ふたりだけの空間にいる。その状況が、ますます私を緊張の渦の真ん中へと誘っていく。

白井さんは何も語らず、まっすぐに前を見て、車を運転している。

こっそり盗み見る、白井さんの横顔は、やっぱりかっこよくてドキドキしてくる。

いつまでたっても白井さんが話し出すことはなく、いつの間にか次の信号を右に曲がると私のマンションに着くところまでたどり着いていた。

なにか話さないと。焦った私の口から咄嗟に出てきたのは、「すみませんでした」だった。

その言葉に、白井さんが怪訝そうな顔を向ける。

「なにが?」

「今日、携帯忘れちゃってて、白井さんからの連絡に気づかなくて。本当にすみません。白井さん忙しいのに……」

キキーッ。

右折した白井さんの車が、そのままその先にあったコンビニへと入っていく。

駐車場に入った車のエンジンを切り、白井さんが助手席へと体を向けた。

「なんで、謝るんだよ?」

「えっ?」

「なんで、お前が謝る必要がある。土曜日の約束を破ったのは俺だ。こっちが謝らないといけないのに、なんでお前が先に謝るんだよ」

ドン、と右手でハンドルを叩く白井さん。

車内は暗くて表情がよく見えないけれど、きっと怒ってるんだよね。

「ごめんなさい」

「だから、なんで謝るんだよ」

思わずうつむくと、ハアッ、と白井さんがため息を吐くのが聞こえた。

「なあ、桐原。お前なんですぐあきらめるんだよ」

「あきらめる?」

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