イジワル副社長に拾われました。

人生を動かせ

『シロを手に入れるか、手放すか。それはすべて、君次第だよ?』

白井さんとの関係を動かせるのは、私自身だ。

そう宗介さんと未来さんに言われてからしばらくたち、すっかり街は、あと二週間後に控えたクリスマス一色となっている。

クリスマスソングが溢れる街中を、私は待ち合わせの場所に向かって歩いていく。

あれから二週間、私の中の白井さんを好きだという気持ちには変わりはない。

だけど、自分の気持ちを告げる勇気も出すこともできず、出来るだけ白井さんのそばにいたいという気持ちだけで、私は未だ、香月化粧品でアルバイトをしている。

白井さんの方も、あれから私に接する態度は今までのままだ。

ただ、前と変わったことといえば、来年の春、白井さんが副社長として取締役に入ることが、正式に発表された。

時期を同じくして立ち上がる、若い女の子のためのブランド、『ディア・アリス』の宣伝活動が、白井さんの広報室長としての最後の仕事となる。

年の瀬ということだけが忙しい理由じゃないだろう、白井さんは今まで以上に多忙を極めていて、アーティスト部に顔を見せる頻度も減っていた。

白井さん、ちゃんとご飯食べてるのかな。睡眠も摂ってるかな。

仕事中の一段落の時間や、寝る前の目を閉じる一瞬に思うのは、いつも白井さんのことばかり。

こんな自分のことが、情けないやら恥ずかしいやら。思わず苦笑いを浮かべたその目に、待ち合わせのカフェの看板が映る。

中で待っているであろうその人の顔を思い浮かべて、私は苦笑いを笑顔に変えた。






「いらっしゃいませ」

店員さんの挨拶に軽く会釈をして、店内をキョロキョロ見回すと、こちらへ向かって手を振る人物を視界にとらえた。

「琴乃、こっちこっち」

「久しぶりー、千絵。元気だった? 引っ越しの準備、進んでる?」

「うん。年明けにはもう向こうだから。バタバタよ」

口ではそんなことを言いつつも、千絵は幸せそうな顔を浮かべている。

会社をクビになってから約二ヶ月。

電話やメールでは連絡を取っていたけれど、こうやって顔を合わせるのはあの日、ランチの約束を果たせなかった日以来だ。

「引っ越しを機に断捨離しようと思うんだけどね、これが中々うまくいかないのよ」

「そうなんだ。私も捨てられない人だから、千絵の気持ちはわかるかも」

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