イジワル副社長に拾われました。
時間が気になるのか、何度か時計に目をやっている。

しばらくすると、お店の中からひとりの女性が顔を出し、白井さんに向かって微笑んだ。

肩にかかるくらいの長さの髪を、ふんわりとウェーブさせた、とてもキレイな人。

ふたりの姿を見て、ズキン……、と心臓が音を立てる。

彼女はいないって言っていたけど、ちゃんといるじゃない。

ジュエリーショップに足を運ぶくらい親密な関係の人が、ちゃんといるじゃない。

私は一体、何を期待していたの?

未来さんや宗介さんに言われて、勝手に期待していたのは私。

やっぱり私なんか、白井さんが好きになってくれるはずはなかったんだ。

勝手に誤解して、ジタバタして、恥ずかしすぎる。

フウッとため息をつき、駅へ向かって歩き出した私の前を歩いていた小さな女の子が、ふと、お母さんとつないでいた手を離して立ち止まった。

急に立ち止まったものだから、後ろにいた私とぶつかりそうになり、間一髪のところで私が体の向きを変えたその時。

ドンッ、と何かが体にぶつかる音が聞こえて、私の体がぐらりと揺れた。

そのまま、地面に向かって倒れこむ。

「大丈夫ですか!?」

「早く、救急車をっ!」

耳元で、いろんな人の声が聞こえるけど、私は声を発することができない。体が痛くて、動かない。

「桐原、大丈夫か!? しっかりしろ、桐原っ!」

遠のいていく意識の中、最後に私は白井さんの顔を見たような気がしていた。






ゆっくりと瞼を開けると、そこには真っ白の世界が広がっていた。

「あれ? 私、今どこにいるんだろ……?」

少し顔を横に向けると、そこには窓があって、夕陽が差し込んでいた。

どうやら私は寝ているみたいで、さっきの真っ白な世界は白い天井だったのだと気づく。

「痛っ……」

起き上がろうとしたけれど、体が痛くて立ち上がることができない。

どうしたものかと思案していると、ガラガラっとドアが開く音が聞こえてきた。

「桐原、目ぇ覚めたか?」

「白井さん……?」

「ちょっと待ってろ、今医者呼ぶから」

私の頭を軽く撫でた後、白井さんが私の枕もとのナースコールのボタンを押す。

「あの、医者って。私、病院にいるんですか?」

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