イジワル副社長に拾われました。
「覚えてないのかよ。お前がぶつかりそうになった女の子をよけたときに、たまたま後ろからバイクが走ってきてて、そっちにぶつかったんだよ」

「……小さな女の子がいたのは覚えているんですけど、他はまったく」

「お前はホント、危なっかしいな。最初に会ったときだって、車にひかれそうになってたし」

優しく微笑む白井さんの顔がまぶしすぎて、直視できず固まっていると、お医者さんと看護師さんが病室へとやってきた。

「検査の結果、脳波にも異常はありませんし、骨折もなさそうです。ただ、打撲はしていますので、しばらくは安静にしていてくださいね」

「わかりました。ありがとうございます」

「また明日、診察にきてください。お大事に」

ふたりが病室を出ていく姿を見送った後、白井さんが私の方へ顔を向ける。

「……じゃあ、帰るか。家まで送ってやる」

「白井さん、あの……」

「ん? なんだ?」

言い淀む私に、白井さんは訝しそうに首を傾げる。

「言いたいことがあるなら言え」

「……どうして、白井さんは私と一緒に病院へ?」

「ああ。買い物してたらブレーキ音と人の悲鳴が聞こえてきたから、行ってみたんだよ。そしたら、お前が倒れてたから、一緒に救急車乗って来たってわけ」

「白井さん、ひとりで、ですか?」

「何言ってんだ? お前。ひとりに決まってんだろ」

ケラケラと笑い飛ばす白井さん。

でも私は知っているの。はねられる直前、あなたは女の人と一緒にいたじゃない。

どうしてそんな、嘘をつくの?

「桐原、どうした? 気分悪いのか?」

黙り込んだ私に、白井さんが問いかける。

私は無言のまま、首を横に振ると、「よかった」と安堵のため息をつくのが聞こえた。

「とにかく今日は、早く帰って休め。な?」

「はい」

結局私は、女の人の存在を白井さんに問うこともできず、おとなしく白井さんの車で家まで送ってもらうことになった。


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