イジワル副社長に拾われました。
「用事があるのは俺じゃなくて、琴乃ちゃん。俺は、未来のために夕飯の支度しなくちゃいけないから、帰るわ」

「おい、クロ」

「じゃあね、琴乃ちゃん。頑張れよ」

「は、はいっ!」

意味ありげな笑顔を浮かべ、宗介さんは帰っていく。

「なんなんだ、アイツは」

突然の宗介さんの行動がまだ理解できずにいる白井さんは、渋い顔。

反対に、白井さんとふたりっきりになった私は、緊張で顔がこわばってくる。

当然、そんな私の表情は白井さんにもわかるくらいで、

「桐原、大丈夫か? なんか顔、怖いけど」

そう心配して声を掛けてくれて、私は首を縦に振る。

このままじゃいけない。

白井さんは、忙しい合間を縫って、私に時間を作ってくれたんだから。

勇気を出して、ちゃんと聞くの。

昨日、一緒にいた人は誰ですか? って。

そして、自分の思いを伝えるの。

「し、白井さん」

「ん?」

「昨日、なんですけど」

「ああ」

「わ、私を助ける前、なにしてました?」

「お前に会う前?」

昨日の行動を思い返しているのだろう、白井さんは顎に右手を添え、視線を上に向けている。

私はただ黙って、白井さんの答えを待つ。

「昨日は確か……、ああ。お前に会う前はジュエリーショップにいたよ、姉と」

「そうですか、ジュエリーショップにお姉さんと……、え、お姉さん!?」

「なんだよ、急に。大声出して」

「す、すみません」

私の大声のせいで、お店の人の注目を集めてしまう。

恥ずかしくなって、私は手元のコーヒーに口をつける。

「白井さんって、お姉さんいたんですね」

「ああ。昨日は母親へのプレゼントを買いに一緒に出掛けててな。買い物終わった後、迎が来るからって言う姉と別れた直後に、桐原の事故に遭遇したんだよ」

「じゃあ、私が見たのは、お姉さんだったんですね」

「なんだよ。見たんなら声かけてくれりゃいいのに」

「それはできませんよ。だって、彼女と一緒とかだったら悪いじゃないですか」

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