イジワル副社長に拾われました。
ふらふら。

泣きじゃくりながらマイナスなことばかり考えていた私は、周りに気を遣うことができていなかった。

「危ないっ!」

誰かの叫ぶ声が聞こえた瞬間、強く腕を引かれ。

キキーッ!

車の急ブレーキの音に、ハッと顔を上げると、私の横断していた歩道の歩行者用信号は赤を光らせていた。

「大丈夫ですか?」

車を運転していた人が慌てて運転席から下りてくるのを、私は誰かの腕の中から見つめていた。

「だ、大丈夫です……」

ホッとした顔の運転手さんがまた車に乗り込み、走り去った後。

私を包んでいた腕が離れていった。

「立てるか?」

その手が私の右手をつかみ、立たせてくれた。

そこでようやく、私は助けてくれた人の顔を認識した。

サラサラ、秋の木漏れ日にツヤツヤと光る黒髪。

キレイな切れ長の瞳。

ピシっとスーツを着こなすその男性は、私と目が合った瞬間、目を三角にした。

「お前、何バカなことしてたんだ!」




「……ほぉ。男盗られて仕事失って、自暴自棄になって命落とそうとしたか」

「いえ、命までは落とそうとはしていませんでした」

「は!? じゃあなんだ、さっきのは」

「ぼんやりしていて……、ほんっとーにすみませんっ!」

危機一髪。

現在私は、助けてくれた男性と近くのカフェに入り、先程の失態に至った経緯を説明中。

なんで初対面の人に、私の不幸話を語らないといけないのか……。

恥ずかしさや情けなさが入り混じった、何とも言えない感情が渦巻き、話し終えた私は顔を上げることなく俯いていた。

「何が、悪かったんでしょうね」

「ん?」

「……私、普通に生きていただけなのに。何も特別なことなんてしていないです。ただ、普通に人がする当たり前の生活を送っていただけなのに、なんでこんな不幸な目に遭わないといけないんでしょう」

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