イジワル副社長に拾われました。
男性が何も言わないことをいいことに、私の愚痴は続いてしまう。

「私、今世界中で一番不幸なオンナですよ、絶対。もう人生もどん底。私より不幸な人なんてこの世の中になんか存在しないよ……」

「何決めつけてんだよ」

すると、今まで黙っていた男性が口を開く。

「お前が一番不幸だって、何でわかる?」

「なんで、って。だって不幸じゃないですか。失恋した上に、失業だなんて!」

「それだけだろ」

「……それだけって! あなたに何がわかるんですか?」

あまりに冷たいその物言いに、思わず胸がカアっとなる。

「それだけ、なんて。ひどいこと言えますね。この先私、どうしていけばいいのか本当に悩んでいるのに」

「でもお前、失業したって言ったって、当面の寝る所や食うものには困らないだろうが」

「え、えぇ。まぁ」

確かに、今月の家賃は払っているし、一応少ないけれど貯金もある。

貯金を切り崩しながらの生活とはいえ、今すぐ困るってことはないけれど……。

「世界に目を向けてみろ。自分たちが悪いことなんて何もしていないのに、戦争で住む場所や今までの生活を失っている人だっているんだぞ。お前の言う、『失恋した上に失業』なんて、正直俺からしてみれば世界一不幸なカテゴリなんて入らねぇよ」

「……!」

思わず息をのむ。

この人の言うとおりだ。

人の幸せ、不幸せに、基準なんてない。

基準はいつも、自分自身が決めていて。

私の思う幸せが、必ずしも他の人の幸せだっていうことなんてないんだ。

「すみません……」

思わず俯く私の頭の上で、小さくため息をつく声が聞こえた。

「……いや、俺もちょっと言い過ぎた」

「そんなことありませんよ。世界レベルで見たら私の不幸はそこまででは……」

「でも、お前にとっては世界一不幸なくらい、傷ついたんだろ?」

少しだけ優しくなった声色に思わず顔を上げると、さっきまでの不機嫌そうな顔が一転、なんだか柔らかくなっていた気がして。

ちょっとだけ、胸がキュン、となった。

そうだよ、私はまだまだ頑張れる。

きっと大丈夫。

この人のおかげで、少しだけそう思えてきた。

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