「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】
「後、30分くらいしたらお骨上げみたいよ。
少し落ち着けてから、皆のところに戻って来なさい」
そう言って紗雪のお母さんは控室の方へと移動した。
「紗雪……」
「そうだね……」
次の霊柩車が到着して、祐未が吸い込まれた火葬炉の隣が騒がしくなったのを気に
私たちはその場所から控室に向かおうと動き始める。
だけど歓談している親族たちの輪の中には入れずに、
そのままホールの外へと気分転換に出掛けた。
「ねぇ、貴姫さん達どうしてるかな?」
「そうだね。
皆もお別れしたかったと思うのに……。
里桜奈、私今から電話してみるよ」
そう言って紗雪は携帯を取り出すと、貴姫さんへと連絡をいれる。
誰にも邪魔にならない隅っこに移動して、スピーカーに切り替えてくれる紗雪。
「もしもし」
「貴姫さん……」
「紗夜【さや】と里桜奈は、ちゃんとお別れできたわね。
私たちも少し離れたところから、出棺は見送ったわよ」
「……はい……」
「里桜奈はそこにいる?」
「はい……います……」
「Takaが旅立って、Takaが二人もいるって言われてAnsyalのファンも皆混乱してる。
他のチームからの情報で、やっぱり祐未と同じように後を追った子もいるみたいなの。
ファンのそんな行動は、メンバーが一番悲しむわ。
だから貴方たちも、祐未が居なくなって辛いと思うけど……乗り切りましょうね」
貴姫さんの言葉に、二人して「はい」っと返事を重ねた。
「すいません。貴姫さん、そろそろ祐未の骨上げの時間が近づくから……いきますね」
「えぇ。
祐未にちゃんと伝えておいて。
私たちはずっと一緒の仲間よって」
そんな貴姫さんの声を聞いて、紗雪は電話を切った。
貴姫さんとの電話を終えて私と紗雪は控室へと再び戻った。
控室で祐未の親族と合流した後、
斎場の関係者の人に声をかけられてお骨上げの部屋へと移動する。
骨となってしまった祐未の体を、斎場のスタッフさんの説明を聞きながら
順番にお箸で挟んで骨壺に入れて行く。
そんな儀式を一通り終えると、そのままお寺で初七日の法要。
慌ただしい時間が終わって私は帰路についた。
電車のホームで自宅に電話をすると心配そうなお母さんの声が聞こえる。
「今から帰るから。多分、駅には18時半くらいにつくかな」
「そう。
お父さん、消防の見回りで今日は居ないからお母さんが迎えに行くわ。
中央ロータリーで待ってるわね」
「うん」
そのまま電話を切って、ホームに入ってきた電車の前に立つ。
これからLIVEに出掛けるのだと思われるバンドファンの軍団を見送って、
私はその電車へと乗り込んだ。