「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 

電車に乗り込むと、携帯の電源を落としてドアに持たれながらボーっと車窓を眺める。


祐未のこと、Takaのこと……。
こんな短期間に、大切な人が二人も居なくなってしまった現実。


だけど……祐未の死は実感できても、
Takaの死まではなかなか受け入れられずにいた。



定期のパスケースに挟まれた……Takaとの2ショット写真。
Ansyalのメンバーと一緒に取った宝物。


そんな宝物を指先で辿って触れるものの、
やっぱり涙が流れ出すことはない。





立ち尽くしたまま、無意識のうちに行動していたのか
気が付いた時には自宅へと帰りついていた。




「里桜奈、すぐに晩御飯よ。
 美桜、手伝いなさい」



お母さんの声が家の中に響く。
まだボーっとなんてしてられない。


ちゃんと心配かけないように動かなきゃ。



奮い立たせるように、その後の晩御飯の時間を乗り切って
私は自分の部屋へと戻った。



今はただ……何も考えず、ボーっとしておきたい。



MP3プレーヤーを掴んでスピーカーへと接続すると、
そのままAnsyalの音楽を小さく再生する。


真っ暗な部屋で崩れるように床に倒れ込むと、
そのままAnsyalのサウンドに縋りつくように心を委ねた。





この音楽は……出逢ってから私を裏切らない。
だから……もう一度、歩き出すために力が欲しい……。


ねぇ、Taka……貴方は力をかしてくれるでしょう。
ずっと、そうしてくれたみたいに……。








そのままAnsyalのサウンドに包まれるようにその日は眠りについた。




翌朝、大晦日。
朝から大掃除とお節料理作りで慌ただしくなるのが、我が家の行事だけど
今年は……気遣ってくれたのか、私が目が覚めた頃には10時を過ぎようとしていた。


慌てて携帯電話の電源をいれると何度も何度も電話をくれたらしい楓我さんの電話番号を確認する。



そんな楓我さんの名前を見ると、安心する私がいる。
慌てて電話番号を呼び出してリダイヤル。




「里桜奈ちゃん……良かった……」


開口一番、私の名前を紡いだ楓我さんは溜息と共に良かった……っと言葉を続けた。


「里桜奈ちゃん、どうしたの?
 まだ体調悪くて寝込んじゃった?」

「えっと……熱はちゃんと下がりました」

「そう……。声がきけて安心したよ。
 何かあった?」



電話の向こうでトーンを変えて、心配そうに問いかける声。


「えっと……すいません。
祐未が自殺しちゃってお通夜とお葬式だったんです」


告げた言葉に、楓我さんは驚いたみたいに言葉を失っていた。



「里桜奈ちゃん……俺……」

「ちゃんと、お別れしてきました。
 紗雪と一緒に」

「そっか……紗雪ちゃんと……。
 どうすっかなー。

 少し、今からそっちに行ってもいい?
 里桜奈ちゃんの顔見るまで安心できないや」


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