「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 





学校の校門を出て私が向かうのは、
通いなれた病院。


電車を乗り継いでいつものように病院に顔を出す。
トントン。


手の甲でドアをノック。


「楓我さん、居る?」


中からゆっくりと扉が開かれる。


「こんにちは。
 里桜奈ちゃん」

「こんにちは。
 入っていい?」

「どうぞ」



楓我さんは、いつものように病室の中に通してくれる。
ベッドの上をトントンっと叩いてそこに座らせてくれる。
 

指示された場所に、チョコンと座る私。


「今日は診察?」

「うん。
 まだ時間あるから……」

「そっか。
 里桜奈ちゃん、来るたびに明るくなってくね。

 高校生活は楽しい?」

「……楽しい……。

 でも、まだ心の中ぐちゃぐちゃだよ。
 わかんないことだらけ」

小さく呟くように吐き出すように、
こぼす言葉。


「わかんないことだらけでいんじゃない?

 ゆっくりと知っていけば。
 
 わかんないから、もういいやーって、
 そこで諦めてなければさ。

 ちゃんと、わかんないことに向き合ってたらいんだよ」



ゆっくりと言い聞かせるように楓我さんがそう言った。
 


「あっ、里桜奈ちゃん。
 来週なんだけど、俺に付き合わない?

 直弥には交渉して、次の検査で異常がなければ外出していいって言われたから」
 

ベッドサイドの貴重品が入った引き出しをサっとあけて、
財布の中から取り出したチケット。






Ansyal
~天の祈り~

xxxx.5.5 クリスタル ホール







チケットに記された日付。
Ansyalの文字。


吸い寄せられるようにそのチケットに触れる。




「楓我さん。
 これって、Ansyalの次のLIVE?」

「そうだけど……。

 里桜奈ちゃんAnsyalにはまったみたいだし、
 良かったら 一緒にどうかなって?

 俺と一緒でいいんだったら……だけどな……」



楓我さんが、悪戯っ子的な笑みを浮かべた。


「行きたい。
 行きたいです。

 でも……」

「でも?」

「その日……約束があって……」

「約束?」



楓我さんに紗雪との約束を伝える。


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