「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 

「里桜奈っ。
 今日は里桜奈の大好きな晩御飯作るって言ったわね。

 何を食べたい?

 あっ、でもせっかく里桜奈が帰ってきてるから
 お父さんの大好きな、肉じゃがも里桜奈作ってあげなさいね」

「……うん……」





……紗雪……。


心の中で紗雪の名を呼んで祈ったとき、
Ansyalの着うたが周囲に響く。


やったー!!



慌てて鞄の中から携帯を掴み取る。



「もしもし、紗雪?」

「里桜奈、ごめん。
 ちょっと総長からの電話で遅れちゃった。

 里桜奈のお母さんに代わって。
 ちゃんと、話あわせてあげるから。

 貸し一つだからね」

「うん」

「ほらっ、かわっていいよ」



その紗雪の声を合図に自分の為の嘘の世界に身を委ねていく。



「うん。ちょっと待って。
 お母さんに聞いてみないとわかんないから。
 
 うん。
 今、かわるねー」




会話を弾ませてるみたいに一人で……演じて。



「おっ、お母さん高校の友達。

 紗雪ちゃんって言うんだけど、
 友達同士で紗雪ちゃんの家でお泊り会するの。

 遊びにおいでって。
 紗雪がお母さんと話したいって」
 


そう言ってショッピングカートを押して買い物中の母に電話を渡す。


母は、その電話を受け取って紗雪ちゃんと暫く話してた。


「はいっ。
 里桜奈行っていいわよ。
 いいお友達出来たのね」



そう言って返してくれた電話を受け取る。


「里桜奈、ばっちりでしょ。
 任せなさいって。

 これからも協力するから。
 私、里桜奈の一番の友達だから。

 楓我さんと幸せの夜を……ちゃんと勝負下着で行きなさいよ」



幸せの夜?
勝負下着?




紗雪の言葉にちょっぴり戸惑いを覚えつつ静かに電話を切った。




「有難う。
 お母さん」

「いいわよ。

 せっかく里桜奈の大好物作ろうと思ったのに出来なくなったわね。
 でも、お父さんに肉じゃがだけは作って行ってあげて。
 喜ぶと思うから。

 紗雪さんの家に持っていくお土産買って行かないとね。
 泊まらせてもらうのに手ぶらなんて出来ないもの」



そう紡いだ母の言葉に何故か心がチクリと痛んだ。



その日、買い物から帰宅して父の大好物の肉じゃがを調理し終えると、
母が新調してくれた洋服に袖を通して荷物を詰め込んだ鞄を、
肩からぶらさげて自宅を後にした。



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