「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】
「里桜奈またなの?自転車のパンク。
パンクの修理も毎日毎日だと大変なのよ。
どうにかならないの?」
どうにかならないの?って。
そんなの私の方がききたいわよ。
それに……何で私が怒られないといけないの?
私がパンクさせたわけじゃないのに。
私は被害者なんだから。
「迎えに来てくれるの?
来てくれないの?」
少しイライラした心を殺して問い直す。
「行ってもらうわよ。
もう少し待ってなさい」
電話の向こうの声がブツリと切れて、
声が聞こえなくなると真っ暗な闇が降りてくる。
シーンと静まり返った校舎前。
すでに教師たちも全員帰宅した。
15分後、ヘッドライトの光と共に姿を見せた見慣れた車。
真っ白なセダンから出てきたのはお父さん。
お父さんは無言でトランクを開けると、
自転車が詰め込めるよう毛布で車が傷つかないようにあてがいながら、
ひょいっと自転車を積み込んだ。
素早く荷物入れから鞄を取り出すと、
そのまま車の後部座席に乗り込む。
何も言わずに走り出す車。
車内の沈黙だけが重い。
車窓から見慣れた景色をぼーっと見つめる。
ただ流すように。
私、吉崎里桜奈【よしざき りおな】
中学三年生。
幼稚園、小学校と虐められ続けて、
中学になって、二校の小学校が合同になって一つの学校に通うことになった。
全校生徒の人数が少なくて、クラス替えが全くなかった
幼稚園の2年間プラス小学校の6年間、あわせて8年間。
ずっと弄られ続けて苦痛だった。
早く中学生になって、クラス替えがが出来るようになったら、
私を知らない新しい友達が出来て、この苦しみから解放されると思ってた。
だけど中学生になっても、この現状は何一つ変わらないまま
三年目を迎えている。
原因なんてわからない。
ただ……気がついたときにはずっと独り。
ただあの時よりも違っているのは、
幼稚園と小学校の時代よりも人数が増えた分私を虐める人数も倍になったと言うこと。
一度、虐めのターゲットになったらもう終わりなんだよ。
その場所に夢も希望も何もない。
ただあるのは……虚無な世界と嘘に塗り固められた世界。
居場所のない孤独感。
そして……虐めは唯一の居場所、
自宅ですら居場所として受け入れなくさせてしまう。
……消えたい……。
死にたいじゃないんだ。
消えたい。
自分の存在自体を、
この世の歴史から抹消したい。
追い詰めるように、
何度何度も考えて思いつめた。
「里桜奈。
着いたぞ」
気がついたら自宅の駐車場にと滑り込んでいた、
お父さんの愛車。
「明日の朝までには自転車修理しておく」
「うん。
いつもごめんなさい」
そしても今日も、
仕事で疲れてるお父さんの余計な仕事が就寝前に増える。