「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 


いつも……ごめんなさい。
迷惑ばかりかけて、ごめんなさい。



続きの言葉を心の中で何度も呟きながら。



幼稚園、小学校と昔から、虐められてた。


だけど幼稚園の間は、まだマシだった。

遊具で皆と遊ぶ時間、私がその遊具を触ると
他の子たちは一斉に手を放して、汚いものを触るような仕草をした。

二人組になるように指示をされても、私と同じ行動をしてくれる人は現れなくて
いつも先生がパートナーだった。



小学校になって、今まで一学年だけだった虐めが
全学年対私一人になった。


バス通学の私。
バスは貴重な一時間に一本。

だけどそのバスに乗り遅れさせられることも、
多々あった。


徒歩通学の生徒に引っ張られたり、
トイレの中に閉じ込められて外側から塞がれてしまって、
間に合わないこともあった。


ランドセルを開けたら、蝮がいれられていて
ぴっくりしてランドセルを放り投げたら、
周囲にいた生徒たちにおかしそうに笑われた。


学校の教科書が消えたり、落書きされたこともあった。


雨の日に、ジャングルジムの下に引きづりだされて
集団暴行を受けた時もあった。


だけど……これ以上、今の方がしんどかったんだ。



中学一年になった四月。
本当に入学式の朝は、希望に満ちてた。


だけどそれは、その瞬間から崩れ落ちる。


小学校時代のいじめの首謀格が、
私が学校に現れた途端に、あの頃のように虐めを始める。


それが引き金となって、希望は崩れ落ちた。
私の考えは、甘かったんだってすぐに思い知らされた。



入学式の翌日から、
新品のお気に入りの五段ギアの自転車は、
毎日両輪共にパンクさせられる。


ブレーキコードが切られたときもある。
座面部分には、何かが塗りつけられているのはあの日から毎日。


制服や体操服、教科書が焼却炉の中で見つかったこともあったし、
目の前で燃え盛る火の中に投入されたこともあった。




給食のない学校で毎日のお弁当生活にも関わらず、
自分の机に座ってお弁当の蓋を開けた途端に、
机ごと蹴られてしまって、お弁当ごと机は床にばらまかれてしまう。


私の昼休みは、床に散乱した手作り弁当を拾い集めて
ゴミ箱に捨てて床掃除の水拭きをした後、
人気のない場所へと行方をくらます。



体育の着替えは一番最後に行って、
体育の授業が終わると真っ先に更衣室に戻って、
着替えを済ませて慌てて飛び出していく。


少しでもタイミングを外すと制服がなくなってしまうから。


自宅の自室を出たときから戻るまで、
少しでも気を緩めることがないから。



鞄を肩からかけなおして自分に自己暗示をかけるように、
何度も何度も「大丈夫」と呟いて家の中に入る。





「ただいま」



ドアを開けて少しリビングを覗く。



「お帰り」

「帰ってきたんだ」



「お帰り」っと言う母の声と被って重なるのは妹、美桜【みお】。


すでに学校から帰宅していた妹は私のことをじーっと見ると、

「バカみたい。

 アンタがずっと虐められてるから私までバカにされるのよ。
 あれが居るなら私、ご飯いらないよ」


リビングを出て無言で自室へ戻っていく妹。



私より二つ年下の美桜は、
私が虐められているが故に学校生活で不快な想いをしている一人。


その苛立ちが、全て家の中で私に降り注ぐ。



「はいっ、お弁当ご馳走様美味しかったよ。
 疲れたから私も部屋に戻る。

 食欲なくて晩御飯食べれないから、
 美桜ちゃんと呼んでやってよ」


そのまま部屋に戻ろうとする私を母の声が呼び止める。


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