「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 



「あぁ、何々?紗雪と裕未ったら私を置いて内緒話?」



写真撮影を終えて私たちのもとに引き上げてきた紗雪は、
鞄の傍に置いてあるペットボトルを持ち上げてコクコクと喉を潤わせる。



「んで、今日は……楓我さんは?」

「外せない検査があるみたいで今日はお留守番組。
 お土産買ってきてって言われちゃったよ」

「だったら、買いに行かなきゃ。
 ほらっ、グッズ売り場走るよー」




紗雪に手をひかれて駆け出す私。
その後ろから裕未さんが追いかけてくる。


紗雪が通り抜けるたびに周囲から湧き上がる歓喜の声。


後で知ったことなんだけどうちのチームの人たち、
Ansyalのコスチームの中では有名な人が多すぎて、
こっそり……コスプレなのにファンがいるらしく、
紗雪もそんな人気レイヤーの一人だった。
 

楓我さんのお土産のパンフレットも買えて、
後は公演開始を待つのみ。


開場前の整列。
そして……開演。



もう何回目かの参戦でお馴染みになったAnsyalのovertur。

暗転の暗闇の中に天上から降り注ぐ優しい光。
ゆっくりと真っ白な羽が降り注いでメンバーが顔を覗かせる。

叫んで、泣いて、歌って、笑って。


全力で走り抜けた二時間半。
半ば放心状態のままで撮影会の準備。



珍しく……撮影会に当選した私たちは、
緊張の面持ちでスタッフの誘導する指示のまま整列していく。


「あぁ、どうしよう。
 紗雪いっっぱい泣いたから顔ぐちゃくぢゃだよ」

「はいはいっ。

 ほれっ、鏡。
 今の間に気になるところ、直してあげるから」


仕方ないなーっと言わんばかりに、
紗雪は手早く私の顔にパウダーをのせて
ラインをひきなおしていく。



「はいっ。おしまい」

「ねぇ、紗雪。

 どうしよう?
 何話したらいいの?」


思わず紗雪をじーっと見つめる。


「何話すって好きに話したらいいじゃん。

 ほらっ、もう少し落ち着きなって。
 隣の裕未を見習いなよ」


えっ?


思わず裕未さんを振り向くと、
裕未さんは嬉しそうに微笑みながら……固まってる。


おかしくない?



「紗雪、裕未さん見習って私も固まればいいの?
 それなら私、今すぐにでも自信あるかも」

「あちゃー。

 アンタたち二人はどうしてそうかなー?
 ほらっ裕未、何時まで固まってんの。

 ほらっ、Takaが見てるよ。
 その間抜け面早く直しなさいな」


悪戯っ子な笑みを浮かべて、
小さく耳打ちすると紗雪の声に、
慌てて裕未さんは、我を取り戻す。


会場内は歓声が響き渡り、
先ほどまでメンバーが演奏していた
ステージには撮影会の為にメンバーが再登場。



「只今よりAnsyalファンミーティング撮影会を開始いたします。
 事前にメンバーの籤引きで本日の順番は決まっています。

 最初に皆様をお迎えするのは祈【いのり】、
 続いて託実【たくみ】・Taka・憲【のり)】、
 撮影会のトリを務めるのは十夜【とうや】となります。

 それでは前列右側の先頭の方より暫しの時間をお楽しみください」
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