「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 



スタッフの声が響いて、ゆっくりと列が動き出す。



スタッフに誘導されるままに一歩一歩ステージに近づいていく。

その度に鼓動が高鳴っていく。
手から……汗が滲みだす。

ベタツク手を慌ててハンカチで抑えながらも、
脳内はグルグル必死にシュミレ-ション。


まずは……祈さん。


えぇ、何話そう?
祈さんのこと、良くわかんないよ。
私。


託実さんは……ベースの人だよね。
ベースの音色が心地よくて落ち着きます。

うーん、おかしいかなー。


んで……Taka。
Takaには話したいことが沢山だよ。


私に生きる希望をくれて有難う。
うーん、重たいよねー。

でも感謝しか思いつかないよ。

ただ、有難うだけだったら何の意味か伝わらないじゃない。
どうしようー。


憲さんは……うーん、困った。
こっちも何ていっていいか思いつかないよ。


最後が十夜さん。
親友の紗雪が十夜さんの大ファンなんです。


って、これじゃ……「アンタはどうなの?」って感じだよね。
紗雪が十夜さんを好きなのは、間違いないんだけど……伝えるって難しいよー。



「はいっ。次の人ステージの上に上がってください」


ふえっ?


スタッフの声に現実に戻った時には、もう脳内真っ白。
私の前にいた紗雪も裕未さんもすでにステージの上の人。


いやぁー、置いてかないでよー。
慌てて、ステージの階段を駆け上がる。


祈さんと向き合う私。
緊張……真っ白になった脳内は言葉が何も出てこなくて。

「今日は有難う」


優しい声と共に差し出された手。


握手でいいんだよね。
慌てて握り返してパシャリ。


次の試練の場へ。


祈さんの試練で多少思考が戻ってきた私は何とか先に言葉を切り出す。


「託実さん。今日はお疲れ様でした。
 託実さんのベース音、心地よくて好きなんです」


よぉーし。シュミレーション通り。
心の中でガッツポーズ。

「そう、有難う。
 そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ。
 今日は楽しんでもらえた?」

「はいっ。期末テストの後の最高のご褒美になりました」

「それは良かった」


落ち着いた雰囲気で、会話を誘導してくれたのも手伝ってか
ちょっとリラックス出来て、記念撮影。

背中合わせベースを手にして決めポーズでパシャリ。

続いて……力んで、Takaの方へと一歩を踏み出す。

右手右足が同じように同時に出てロボット状態。


あっ、あれ?
うまく歩けないよー……私。


「ほらっ、おいで大丈夫?」


スーっと手が肩に伸びて、
もう片方の手を添えられて引き寄せられるように引っ張られた体は、
スッポリとTakaの腕の中へ。




「ぎゃぁああ」


あぁ、恐れ多い。
なんてこと……。



慌ててTakaの腕から飛びぬけた私にTakaは、
「ごめん」っと小さく呟いた。
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