「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】
後は、ピアノしか弾けないって言って楓我さんに怒られたことも付け加える。
その後は、今の私の本音。
明日、楽しみだけどピアノの他の経験がないから不安なのもあることを、
ありのままに吐き出した。
今日、最後のセッションだった私はその後、裕先生に誘われるままに
病院内の一室に連れて行かれた。
そこは小さなホールみたいになっていて正面には大きなグランドピアノ。
「こっちにおいで」
そうやって連れられた先に戸棚の中から、ゆっくりと取り出されたケース。
その中に入ってるのは飴色の宝石。
艶やかな光を放つ綺麗なフォルムのヴァイオリン。
「これが私の相棒だよ」
そう言うと、着ていた白衣を脱いで椅子の上に引っ掛けると、
ゆっくりと飴色の宝石を手に取って奏で始める。
ゆったりと広がっていく甘い音色。
上品な音色はAnsyalの曲を空間いっぱいに広げていく。
演奏を終えた裕先生は「ここ暫く触れてなかったから指動かなかったねー」なんて言いながら、
相棒をケースの中へと片付けた。
「私も他の楽器は出来ないんだよ。
でもヴァイオリンが私に寄り添ってくれた。
それに託実だって最初からベースに走ってたわけじゃない」
えっ?
たくみ?
たくみって……あの託実さん?
別の人?
聞きなれたキーワードの名前が紡がれて耳が反応する。
「たくみって?」
小さく疑問を投げかけた私に裕先生はサラリと告げた。
「たくみは、あの託実だよ。
里桜奈ちゃんたちが良く知ってるAnsyalの託実は私は従兄弟だからね」
突然の衝撃発言に思わず言葉を失って裕先生の目を見つめる。
「残念ながら、里桜奈ちゃんの口からTakaの話ばかりで、
託実の名前は出てこなかったけどね」
なんて……続けた。
言葉、返させない……。
「あっ……あの、だったらTakaのことも良く知ってるんですか?」
「あぁ、Takaね。
Takaだけじゃなくて十夜や憲のことも。
特に託実とTakaと十夜は昔から私たちを困らせてくれたから」
なんて楽しそうに続けた。
裕先生の後輩なのだと教えてくれたAnsyalのメンバーである四人。
「私の母校の後輩なんだよ。あの子たちは……。
託実とTakaは学生時代から仲が良かったし、
十夜と憲は直接の後輩だったからね。
最後に加入した、祈だけは直接の繋がりはないけれど
それでも今は顔馴染だよ」
遠い存在のAnsyalが、
それだけで何故か凄く距離が縮まった感じがした。
感覚って不思議。
画面の向こうに想いを寄せて見ているだけだった時より、
LIVEに行った方が近く感じる。
だけど同じLIVEに行っても、
広い箱の中でしてる時より狭い空間の中で同じ時間を暴れてる方が、
近くに感じられる。
そして緊張はしちゃうけど……この間みたいに写真撮影会なんてした時には、
凄く凄く距離が近いような気がする。
この時は夢みたいな感じがして、現実感が少し薄れるのもあるんだけど……。
そして……自分にとって直接の繋がりはなくても、
知り合いの関係者だって言われるとやっぱり……また距離の感じ方がぐっと近くなる。