「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】
2.偽りの世界の中で
朝は来る。
どれだけ、その存在を拒否しても朝だけはやってくる。
無常な日々を連れて。
目覚ましの音色が部屋内に響く。
ベッドの中でゴソゴソしていたけれど、
朝が消えるはずもなく布団から抜け出して制服に袖を通す。
荷物を持ってリビングへ顔を出す。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「朝御飯は?」
「いらない。
気持ち悪いから。
行ってきます」
食べれるはずのないお弁当を鞄に突っ込んで今日も出掛ける。
納屋【なや】には、
昨日壊された自転車がすでに修理されて立っていた。
……ごめんなさい……。
私が使うから、この子はまた……今日も酷い目にあう。
私なんかの自転車でごめんね。
私と出会わなければ良かったよね。
僅かに自転車に触れて心の中で謝る。
荷台に鞄をくくりつけて準備を整えると、
自転車を納屋から出してこぎ出す。
自転車が動きはじめて朝の冷たい風が、
身を突き刺していく。
自宅を出て五分くらい漕いだ先、
最初の橋に差し掛かる頃、前方に見慣れた自転車が止まってる。
そのまま左折すると、後ろから合流するように話かけてくる。
「おはよう」
左折する私に声をかけたのは、
幼稚園のときから友達だと信じてた奈知【なち】。
奈知的には<私は貴方の友達よ>。
でも私的には……偽りの友達。
だって、そうでしょ。
奈知にとっても学校では私は、
「見えない人」になってしまうから。
「里桜奈、一緒に行こう」
私の後ろを声をかけて追いついてくる奈知。
自転車二台で並んで走るようになるのは
次の橋までの僅かな時間。
次の橋には奈知が本当に学校まで一緒に行く友達が存在するから。
「里桜奈、私、里桜奈の友達だよ。
でも里桜奈と居たら私も狙われちゃうから。
ごめんね。
だけど……こうやって誰も居ないときは仲良くしてたいから。
二人だけの秘密の友達みたいで良くない?」
わけわかんないんだけど。