「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 


「空音、お待たせ」


そう言うと、朝日奈さんはスタンドに立てかけてあった二本の楽器を私たちに見せた。


「とりあえず……Ansyalが使ってるのとは違うんだけどこっち。

 弦の数が六本と四本だろ。
 六本がギターで、四本がベース。

 ちなみに音としてはベースの方が低い音を出すから弦の太さも太いんだ」



そう言って、朝日奈さんは私と祐未にギターとベースの目に見える
違いを教えてくれると、ひょいと六弦のギターを持ち上げた。


「んで、まず一番細い弦から1弦って数えて行くんだけど、
 1弦はE【ミ】・2弦はB【シ】・ 3弦はG【ソ】・ 4弦はD【レ】・
  5弦はA【ラ】・ 6弦の一番太いのはE【ミ】ってことになる。
 これが開放弦の基準。

 ちなみに開放弦って言うのは、何処も抑えなかったときの音な」



そうやって説明しながら、朝日奈さんは実際に音を出していった。


「んじゃ、持ってみな」



そう言うと、朝日奈さんは私たちの方に自分の相棒らしいギターを差し出す。

アイコンタクトをした後、最初にそれを受け取ったのは私。
ズシリとした重さを感じる。



「ストラップ肩からかけて落とさないようにしてくれよ。

 んじゃ、これを見てくれ」



そう言って、差し出された1枚の紙。


そこにはギターのパーツの名前と6本の弦らしき線。
その上に区切られた、ネック部分に沢山つけられてるフレットらしき横棒。


その間に、「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」「ド」と
順番に音階が記されていた。
 

睨めっこしながら、恐る恐る
指先で、その場所を抑えて弦を弾く。


静かに広がっていく初めての音。


「難しいか?」



そうやって声をかけてくれた朝日奈さんに頷く。


使っているのは、3.4.5弦だけなのに
声をドレミと出しながら、一つずつ指を動かしていく。

これがTAKAが通ってきた世界なんだって
噛みしめながら、少しずつ音が出していけるのが嬉しくて。



「全部の指を使って、指はバタバタさせない。

 指は寝かさずに、フレッド際をしっかりと押さえろよ。
 後は爪、長すぎると演奏しづらいからきっとけよ」


朝日奈さんに言われるままに、夢中に戯れた時間は流れ続けてて。
たどたどしい音色で演奏する、かえるのうたが拙く響く。


現実に戻されて来た時、祐未はギターではなくベースに惹かれたのか
朝日奈さんに、ベースの演奏を教えて貰ってるみたいだった。



「あっ、里桜奈が現実に戻ってきた」



そう言いながら紗雪がケラケラと笑う。
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