「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 

改まったこと、気張ったことじゃなくて他の誰かが出来てるから出来て当然じゃなくて、
私が出来なかったことが出来るようになったこと。


普段何気なくやってる行動にすら、
労ってもいいのかなーって思えるようになった。


慌ただしく動き続ける日常は、
二学期が始まって四週間に差し掛かろうとしてた。




「里桜奈、祐未いたいた」




放課後、紗雪が一枚の用紙を持って私たちの方へと近づいてくる。



「何、紗雪?」

「なんだと思う?」

「えぇーなんだろう」

「もったいぶってないで教えてよ」


なんだろうって呟くことしか出来なかった間に、
祐未がサクサクっと紗雪に問いかけていく。




まだこんな風には思っていてもトントンと話せない自分を思い知る。

やっぱり今も、昔の傷が強く残ってる。


自分の言葉に対して、相手の言葉や反応が気になりすぎて
怖くて自分の心をガードするために、当たり障りのない言葉しか合いの手が入れられない。




「はいっ。見て」



私と祐未の目の前に、紙を広げて『このもんどころが目に入らぬかー』っとも
言わんばかりに掲げる紗雪。








軽音同好会 発足許可証。





そう記された文字が視界に入る。



思わず祐未とお互いの顔を見合わせて、
絶妙のタイミングで、紗雪とハイタッチ。



「凄い凄い。
 紗雪、頑張ってくれたんだ」




三人一緒に九月の頭に、軽音同好会を作りたいと学校側にお願いした時は門前払い。






「筝楽同好会ならまだしも軽音なんてもってのほかです。
 そんなはしたないことはお嬢様は致しません」






この一点張りで、シスターによって相手にもして貰えなかった。



だけど今目の前の書面には理事長先生の名前とはんこまでしっかりと押されている正真証明の許可証。



「祐未と里桜奈が塾やバイトに忙しい間に私、日参してたんだ。シスターのところに。

 時折、楽器を演奏するところ披露しながら。

 そしたら以外にも理事長先生が訪ねて来てくださった時に私が演奏してて、
 『楽しい演奏ですね。私も若い頃は、ギターを触って演奏していたものですよ』って。

 その鶴の一声で、シスターたちの態度も変わって正式な申請手続きを踏んで待ち続けた一週間。
 その過程でも審査に通らないこともあるって理事長先生には言われてたけどちゃんと通過して許可証が手元に届いたの」


私たちが自分たちのことにいっぱいだった時間に紗雪だけは、
ずっと諦めずに働きかけてくれてた。


そんな事実が私の胸を熱くしてた。




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