「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】
「お待たせ里桜奈。
祐未はどんな感じだった?」
「そんなに話せなかった。
祐未の家もお母さんが厳しいのかな。
電話も途中で邪魔されちゃったよ」
「そっか。前に祐未が成績落ちて特進から今のクラスになったって言ったでしょ。
あれの原因がAnsyalだって思われてるの。
あの頃から祐未もLIVEとかちょくちょく行き出してたから。
だから祐未のお母様とAnsyalはあんまり関係が宜しくないのよ。
祐未の方はまた明日もかけるよ。
んで楓我さんとは?」
「楓我さん行き違いで私の実家の方に行ってくれてて今、此処に戻って来ようとしてくれてる。
病院についたら連絡くれるってさ」
「わかった。
だったら里桜奈は楓我さんが来てくれたら一緒に行動してもいいし、
楓我さんと別行動してもいいし。
だけど私が電話をした時は、ちゃんと電話に出て。
引き続き情報を収集してちゃんと里桜奈にも伝えるから」
そう言いながら神前駅から病院の正門の方へと歩いていくと騒々しいような声が聞こえる。
「何?それ?私聞いてない」
「TAKAが二人ってどういう事?」
次々と聞こえてくる言葉はワンセグを繋いでいるファンの子たち。
そんな声に慌てて私たちもその液晶を覗き込む。
携帯画面に映し出されているのは今向かっている病院前の風景。
マスコミが駆けつけて、中継している病院前の映像。
*
突然ですが今回急逝が発表されたTAKAさんですが、
どちらのTAKAさんでしょうか?
AnsyalにはTAKAが二人存在すると言う大スクープを手に入れまして、
私は、ここ神前悧羅大学付属病院・TAKAさんが死亡したと言われているこの場所に、
中継を出しています。
すでに病院前には真っ黒い服に身を包んだAnsyalのファンの皆さんでしょうか。
お互いを支えあう様に肩を寄り添いながらTAKAさんの御遺体を乗せた車が、
病院から出るのを待ち続けるかのように時間が立つごとに集まってきています。
えぇ、先ほどAnsyalの託実さんが若い男の子を守るように病院内から姿を見せまして、
院内へと姿を消していきました。
何か進展がありましたらスタジオを呼びたいと思います。
*
そんなリポートを続ける画面の中のリポーター。
TAKAが二人?
一斉に騒めきたつ病院前。
ワンセグ画面を引き続き流しながら病院前へと集結するファン。
泣き崩れる人、抱き合う人、まだ私みたいに泣けないでいる人。
そんなファンの輪の中へと私たちも溶け込んでいく。
すると一台の寝台車らしい車が目の前の道路を通過していく。
途端にファンの子たちが「TAKA様ー」っと一斉に叫び始めた。
後ろの方に居た私には、その車に誰が乗っていたのかなんてわかんないけど、
TAKAが乗っていたのかなーっと視界から遠ざかっていく車を慌てて見つめた。
ふいに紗雪が後ろで携帯に出て、幾つかの会話をして電話を切る。
「里桜奈こっち。
えっとうちのチームの皆。
今、副総長から連絡があった。
今の寝台車。乗ってるのはTAKAに間違いないって。
助手席にTAKAのお父様の姿を確認して、
その寝台車の後ろにはお母様を乗せたタクシーが後を追いかけていたみたい」
紗雪から聞かされる情報量に私は驚きを隠せない。
メンバーのお父さんや、お母さんのことまでファンは知ってるんだ。
そんなことにまで感心してしまう。