イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で
「よーく自分の胸に聞いてみるんだな」と言い残して、暁兄はキッチンから出て行った。
自分の胸に、か…。
見透かされているみたいで気に食わないが、確かに俺の胸はなにか言葉にできない感情がくすぶっているかのようにもやついていた。
そしてこの感覚かいつから始まったのか、大体のめぼしもついていた。
それは、あいつが店に来るようになって次第に意識するようになってからで…
「はいカット!!」
またもカットの声。
「あーもう、ちょっと休憩しようかー?」
すかさず足立さんも、さすがにいらだった声で言った。
緊張がほどけるようにホールにざわめきが聞こえてきた。
日菜のやつ、まだうまくできねぇのか…。
と思ったその時だった。
「…っきゃ、ごめんな…」
逃げるように日菜がキッチンに駆け込んできた。
泣きそうになりながら入って来たから前をよく見ていなかったみたいで、俺にぶつかって、日菜はいっそう顔を強張らせた。